軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第15話 片田舎のおっさん、魔術師に出会う

俺、クルニ、そしてローブを羽織った黒髪の女性。

賑やかな大通りの中、奇妙な沈黙が数瞬場を支配する。

「あ、フィスちゃんじゃないすか!」

その沈黙を破ったのは、女性の顔を確認したクルニであった。

「クルニ。居たんだ」

「居たっすよぅ!」

フィスと呼ばれた女性は、名を呼ばれて初めてその視線を俺から外してクルニへと向ける。その表情に変化はない。クルニのことに本当に今気付いたような素振りであった。

「クルニ、知り合いかい?」

黒髪の女性は俺のことを知っている様子だったが、クルニとも顔見知りであるようだ。俺に全く心当たりが無いので、ここはクルニに説明をお願いするとしよう。

「……先生、もしかして覚えてないんすか?」

「えぇ……?」

クルニから実に珍しく、俺を責めるような視線が。

「ベリル先生酷い。哀しい。しくしく」

「そ、そうは言われても……」

無表情のまま行われる泣き真似に言葉を失う。

いやしかし、本当に心当たりがないのである。

同様のことはスレナの時にもあったが、彼女との最後の記憶は本当に小さい時だったから、今の姿と結びつけることが出来なかったためだ。

対してフィスと呼ばれる女性は、クルニとそう歳が離れているようにも思えない。そして、クルニと知り合いでかつ、俺に『覚えていないか』問うということは、同時期に道場に通っていた者である可能性が高い。

だが、本当にそうであれば流石に見当は付くはず。

クルニだって一目見た時に気付けたのだ。

「むう。仕方ない。これでどう」

「うーん……?」

いつまでも思い出さない俺に不服を持ったか、頬を膨らませたフィスはローブの裏から一振りの剣を取り出す。

うん、この剣には見覚えがある。餞別の剣だ。

えっ、ということは俺の道場で全てを修めた子ということか。

ちょっと待てよ、これで思い出せないのはかなり不義理だ。マズい。

容姿……はあまり当てにしないようにしよう、年頃の女性なんて数年で大きく変わってしまうものだ。同様に髪型も当てに出来ない。

逆に髪色はそう変わるものじゃないから、黒髪であることは多分間違いない。性格だってそんなに大きくは変化しないだろう。

独特なテンポで喋る黒髪の女性で、餞別の剣を渡した弟子……。

フィス……フィス?

「あ……もしかして、フィッセル?」

「正解。でも遅い。私はかなしい」

どうやら眼前の女性はフィッセルで合っていたらしい。

相変わらずちょっとむくれたままのフィッセル。だが、一度思い出せばそこから湯水のように思い出が蘇ってくる。

フィッセル・ハーべラー。餞別の剣を渡した弟子の一人だ。

確かに彼女はクルニと道場に居た時期が被っている。それでもクルニが二年で飛び出したのと違ってフィッセルは五年くらいは居たので、しっかりとうちの剣技を修めてから道場を卒業したのだが。

しかし、俺の記憶の中にあるフィッセルという女性はどちらかと言えばボーイッシュな感じで、今の様相とは似ても似つかないものだった。

髪だって短く刈り揃えていたし、身体つきもスレンダー。あまり会話を膨らませるタイプの子じゃなかったから、最低限のコミュニケーション以外は結構黙々と剣を振るっていたように思う。

服装だって質素なものしか見た記憶がないし、膝元まで覆った良質のローブを着込むようなキャラじゃなかった。

最後の記憶は餞別の剣を渡した時。

珍しく表情を緩ませた後、ふと思い立ったように「次にやることが出来た」とだけ残し道場を後にした。

それから短くない時間が経っているが、またしても思いがけぬ再会である。

「いやあ、毎回弟子に会う度に言ってるけど……見違えたね」

「私も成長した。でも気付いてくれないのはかなしい」

「そ、それは本当にごめん……」

如何に様変わりしていようがかつての弟子、それも餞別の剣を渡した弟子を忘れるなど師匠としてあってはならないことだ。ここはしっかりと反省せねば。

「私は見違えたって言って貰えてないっす……」

「ご、ごめん」

ごめんて。クルニはありのままが一番癒されるから。

「まあいいっす。でもフィスちゃんは凄いんすよ! 今は魔法師団のエースとして頑張ってるっす!」

「そう。私も頑張った。えらい」

「え? 魔法師団?」

何で? うちの道場で剣を学んだあとに魔法師団ナンデ?

いや確かに凄いっちゃ凄いことだけど。魔術師ってのは世界全体で見ても貴重で、それくらい魔法に適性がある者というのは限られてくる。

剣はたとえ才能が無くとも、ずっと振り続けていればそれなりにはなれる。

だが、魔法はそうはいかない。才能が無ければずっとゼロのままだ。そこに成長はない。俺にも魔法の才能はてんでなかった。

魔術師になれる者というのは、掛け値なしに才能がある者だけなのだ。

「しかし、うちで剣を学んだあとに魔法まで……本当に頑張ったんだね」

「うん。それにベリル先生の剣もしっかり活かせてる」

「ほう?」

餞別の剣を渡しているだけあって、フィッセルの剣の腕はそれなり以上のものだ。高い剣技に加えて魔法も扱えるとなれば、確かにそれは貴重な存在だろう。

だが、魔術師としての良し悪しに直接剣の腕が関わるか、と問われれば疑問符を浮かべざるを得ない。剣の才能と魔法の才能は全くの別物だからだ。

「剣魔法。私が一番上手く扱える」

「剣……魔法……?」

何だそれは。

「そのまま。剣の動きにあわせて斬撃を飛ばしたり、炎や氷を乗せたりする」

「へ、へえ。凄いね……」

多分だけど、もしかしてフィッセルはしれっと物凄いことをやっているんじゃなかろうか。思わず反応が鈍る。

「その剣魔法、他に使い手はいるのかい?」

「居るには居る。でも、大体は剣を上手く扱えない」

そりゃまあ、そうだろうなと聞いてから思う。

魔法を操るには当然才能が必要だし、その上で努力も必要だ。そしてそれは剣にも同様のことが言える。

剣に魔法を乗せるということは、動きのベースは剣術になるだろう。となれば当然、剣に習熟した者の方が上手く扱える。

魔術師と言うより、魔法剣士、と表現した方が正しいのかもしれない。

そんな職業聞いたこともないんだけどさ。

「そういえば。ベリル先生は何で首都に居るの」

「ああ、それなんだけど」

剣魔法についての話が一段落したところで、フィッセルが当たり前の疑問をぶつけてくる。

俺は騎士団の特別指南役になったことと、今はクルニの案内で西区を観光しに行こうとしていることを伝えた。

「じゃあ、私も一緒に行く。クルニも久々」

「え、いいのかい?」

「大丈夫。私の用事は終わった。付き合う」

「二人で先生をご案内するっすよー!」

言いながら俺の横を陣取るフィッセル。片手には買い物帰りであろう袋が見当たるが、本当に俺の散策なんかに付き合わせてよかったんだろうか。まあ本人が大丈夫と言うのならその言葉を信じるしかないか。

「……フィッセル?」

「西区は人が多い。道も狭くなる。はぐれると大変」

俺の手を掴むフィッセルの手。じんわりと温かい感触が俺の左手を包む。

「……そうか。それじゃあ案内を頼むよ二人とも」

「任せるっすー!」

「分かった」

まあ、いいか。ここで振り解く理由もないだろう。

そうして俺は二人の弟子に連れられて、一時の間観光を楽しむこととなった。