軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コーニッツ・ムーア制圧戦 ⑭

「しっかりと鞍を掴んでおいてくださいね」

「・・・はいっ」

目の前の騎馬が歩き始め、常足、速足、駆足と、徐々に速度を速めて走り出す。

「行きます!」

「・・・っ!」

アンリカさんが 鐙(あぶみ) で腹を蹴ると、馬が足を踏み出した。

前の馬から5メートルほどの距離を空けて、私たちの馬も徐々に速度を上げていく。

どっかんどっかん揺れて、めちゃくちゃお尻が痛い。

休憩中に教えて貰った話だと、走っている馬って、騎手は鐙の上に立って乗るもので、どっかりと鞍にお尻を乗せて座るものじゃないんだって。

膝でクッションを効かせて腰を浮かせていないと、鞍にお尻を強打されて、お尻の次は腰に来るから気を付けてね、と。

いや、私とルナリアは同乗させてもらっている身だから、鐙は無いんですけど!?

なんで、お尻の下に厚く畳んだ毛布を敷かれたのか、今、やっと理由が分かったよ!

しかも、小さい身体で馬の大きな背中に跨っているから、股裂きとまでは言わないけれど、お尻と太ももの裏に、がっつんがっつん衝撃が来る。

先行する騎馬が跳ね上げた土や小石が飛んできて顔を叩き、巻き上げられた土埃が視界を霞ませる。

そりゃあ、顔にスカーフ巻いとけ、って言われるわけだよ。

舐めてた! 馬、舐めてたよ!

原付バイクぐらいの速度だと思うけれど、目線が高いし、前後上下にすごく揺れるし、掴まるところが鞍しか無いから、身体が放り出されそうで、すごく怖い。

一応、放り出されて飛んで行かないように、アンリカさんが肩越しに腕を回してくれているけど、私は鞍の上でぽんぽん跳ねている。

紺色から藍色へと空が染まり始めて、薄暗かった周囲が徐々に明るくなってくる。

レティアの街からコーニッツ領の領都まで、街道を道なりに進んでも40キロメートルも無いぐらいらしいから、信号も無いし1時間と少しで着くと楽観視していたのだけれど、到着するまでに私のお尻が破壊されるんじゃないの!?

必死に鞍にしがみついているだけで、時間の感覚はどこかへすっ飛んで行った。

これでも、私たちを気遣ってスローペースのはずだから、先頭を走るハインズ様たちはもういくらもしないうちにコーニッツ領都へ突入してもおかしくない。

なんて、考えたときだった。

「・・・ふえっ!?」

ズン、と、遠くから、おなかに響く低い衝撃音が聞こえて、緩やかな丘陵の向こうに、 朱(あか) く輝くキノコ雲が立ち上がった。

一度だけじゃなく、2度3度と、焔の柱が立ち上る。

生のキノコ雲なんて、日本でも見たこと無かったよ!?

「始まりましたね」

「・・・そ、そそうみたたいですすね」

揺さぶられ過ぎて、軽い感じで言うアンリカさんに返事をするだけで舌を噛みそう。

言葉を交わしている間にも、おなかの底に響く衝撃音は立て続けに聞こえている。

丘陵を越える頃には、怒号と悲鳴が入り混じった喧騒がワーワーと聞こえ始め、焔混じりの赤黒い煙を上げて燃えている城壁が見えてきた。あれがコーニッツの町か。

未舗装の街道が続いているのだから、あそこが城門だったのだろうと推測できるけれど、そこには城門らしき人工物の姿は無く、崩れた城壁の間に瓦礫が散らばっていて、遮るものが無くなった城壁の間から、ウォーレス騎馬部隊が濁流のように突入し続けている。

「・・・ふあああ・・・」

私が初めて目にしたコーニッツ子爵領の領都は、すでに町全体が炎上していた。

目の前の城門周辺だけでなく、城壁越しに、遠くの方にも何カ所かの炎が上がっているのが視認できる。

最初の爆発から15分も経っていないのに、これだよ。

今、また、城壁の向こう側で、ドォオオオン! と大きな爆発音を伴って、明るいオレンジ色の火柱が立ち上った。

エゼリアさんの合図で私たちの馬は速度を緩め、魔法で吹き飛ばされたらしい城門跡の300メートル手前で脚を止めた。

「あれは・・・、“紅蓮”ね」

ルナリアの肩越しに手を伸ばして荒い息遣いの馬の首を撫でながら、エゼリアさんが首を傾げている。

ルナリアは、といえば、お尻を両手で押さえて、無言で俯いて細かく肩を震わせている。

分かるよ。すごく痛いもんね、お尻。

「町に入っても意味が無さそうね?」

「そうですね。城壁内の騎馬が少ないように見えます」

エゼリアさんの隣に馬を止まらせたアンリカさんが、城壁内の様子に目を凝らす。

「この様子だと、すでにフレイア様とご領主様はムーアへ向かったのでは?」

「そのようね。相変わらず仕事が早いったら」

エゼリアさんが苦笑する。

事前に伝えられていた急襲作戦の予定では、ハインズ様やマルキオ様と一緒に城門を突破して領都内へ攻め込んだお師様とハロルド様は、領主館までの道のりを力尽くで抉じ開けた後、コーニッツ家主要人物の捕縛を後続の味方に任せてムーア領へと急行することになっている。

私たちは戦闘には参加せず、コーニッツ戦とムーア戦の両方を見届けるために、お師様たちの後方を追う予定だ。

ところが、私たちがコーニッツ領都へ到着してみれば、お師様たちの姿はすでに無い。