軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コーニッツ・ムーア攻城戦 真・⑮

戦闘が始まって、まだ30分も経っていないのに、お師様とハロルド様は領都内の敵兵を蹴散らしつつ、反対側の城門を内側から突破してコーニッツを後にしているらしい。

「中を抜けますか?」

エゼリアさんの反対側に居る女性騎士が、担いだ長槍でトントンと自分の肩を叩く。

この人はディーナさん。

直毛の金髪を前下がりのボブカットにした長身の女性で、8人の中で一番若くて一番の力持ち。

ディーナさんが愛用している槍は、穂先が十字型をしている格好いいもので、格好いいなあって槍を見上げていたら、真っ直ぐな刃の普通の穂先だと敵を突いたときに突き抜け過ぎちゃって、引き抜くのが面倒だからこの形なんだって。

アンリカさんが虚空を見上げて思案する。

「戦闘に巻き込まれると、ムーア制圧完了までに追いつけないのでは?」

「間に合わなかったら、しごかれそうですね」

ディーナさんが楽しそうに笑う。

対するエゼリアさんは酸っぱい顔になった。

「フレイア様のしごきは勘弁して欲しいわね。勿体ないけど迂回しましょう」

戦闘に巻き込まれそうな機会を失うのが勿体ないのかな?

怒号や悲鳴は図太いものばかりで、女性や子供など甲高いものが聞こえてこないので、ウォーレス領の騎馬部隊は非戦闘員に手出ししていないのだろう。

無差別攻撃が行われたなら逃げ惑う住民で混乱を極めるだろうけれど、以前にもお師様たちに攻め込まれたことがあるコーニッツ領の住民も心得たもので、住民は家に籠って屋外に出ず、抵抗するのは領主に連なる支配者層と軍事関係者に限られるそうだ。

それって、住民の全てが自発的に参戦するウォーレス領と違って、領主を筆頭としたコーニッツ領の支配者層は住民から見放されているってことだよね。

すぐ隣の領なのに、脅威に対する住民の意識の違いが大きい。

直面する脅威が、容赦のない外敵と、容赦してくれる同国人の違いかも?

現代日本でもそうだったけれど、誰かに守って貰って平和を享受している人の中には、平和が当たり前のものだと勘違いして、自分たちを守ってくれている人たちの足を引っ張ろうとする人が居るんだよね。

平和がタダで与えられるものだと思っている人たちは目先の利益しか見えていなくて、自分たちの家の鍵を壊して強盗を家に招き入れようとする。

自分には関係ないって、無関心で傍観している人たちだって同罪だよね。

自分の家族が強盗に殺されてから気付いても遅いのに、なんで分からないのかな?

与えられるものが少なくてギリギリで生きてきた私は誰かに奪われるなんて、もう、嫌。

日本に居た頃の私は、私を食い物にしようと近付いてくる敵から逃げるだけだった。

それじゃあダメなんだ。

逃げ回るだけでは、私に居場所を与えてくれた人たちを護れない。

黙って奪われるぐらいなら、戦って、生き延びられる可能性を掴み取りたい。

だから私も、もう逃げない。

私たちの騎馬隊は戦闘が続く領都内を通過するのを避けて城壁の外周に沿って迂回し、コーニッツ領の向こう側にあるムーア領を目指した。

「お父様! 叔母様!」

「来たか」

ルナリアが掛けた声に、肩越しにチラリと私たちを返り見たお師様は、ウォーレス騎馬部隊による包囲下にあるムーアの町に視線を戻した。

まだ500メートルぐらい離れているかな。

街から出たときとは別の城門だけれど、半年ぶりに見るムーアの町は、城門が閉まっているぐらいで、私の記憶にあるものと変わりが無い姿だ。

堅牢なレティアの街を見た後でムーアの町を見ると、いかにも貧弱な防備に見えるね。

観音開きの城門は固く閉じられているけれど、城壁の高さはレティアの半分しか無いし、城壁外にお 濠(ほり) も無いから、どこからでも攻め入られそうに思う。

歪な円形の城壁の上には多くの武装した騎士や兵士の姿が見え、町の周囲に押し寄せたウォーレス侯爵家の騎馬部隊を指しては、慌ただしく駆け回っている。

作戦計画の通りに進捗しているのなら、いくらか規模が大きいコーニッツの領都制圧にハインズ様指揮下で当たるのが3000騎で、ムーア男爵一族を一人も逃がさないためにムーアの町まで駆け抜けたのが2000騎のはずだ。

国境側から来る国外の脅威はウォーレス領とコーニッツ領を突破しないとムーアまでは来られないし、政治的にも同派閥で親戚関係でもあるコーニッツ子爵の陰に隠れて守って貰っていたのだろう。

コーニッツ子爵からの救援が来るまで城門を閉じて耐えればいいと考えていたのかもしれないけれど、防衛計画の前提条件であるコーニッツ子爵が救援を出すどころか先に倒されてしまっては、ムーア側はパニックを起こすしかない。

並び立つお師様とハロルド様の馬の傍へエゼリアさんとアンリカさんが馬を寄せる。

ようやく止まった馬の鞍上でお尻を摩っているルナリアに、ハロルド様が目を細めた。

差し出されたハロルド様の手に、エゼリアさんから、ヒョイと脇を持ち上げられたルナリアが手渡される。

「思っていたよりも早く来たな」

「それはもう、フレイア様にしごかれたくありませんから」

「え、エゼリア・・・!」

アンリカさんが立てた人差し指を唇に当てるが、遅かった。

お師様がエゼリアさんを横目に見てニヤリと笑う。

「しごいて欲しかったのか? 付き合ってやろう」

「あっ! あ、あはは・・・。お手柔らかにお願いします」

一瞬、しまった、と顔に出したエゼリアさんが苦笑いする。

「バカ・・・」

額を押さえて首を振るアンリカさんを見上げた私は、お師様へと顔を向けた。

「・・・剣術の訓練?」

「主には、そうだな」

「・・・私も参加していい?」

ほんの少しだけ、驚いたように目を見開いたお師様が、すぐに目元を緩める。

「良かろう。ただし、お前は基礎体力の訓練からだぞ」

「・・・うん。分かってる」

「わたしも! フィオレがやるなら、わたしもやるわ!」

シュバっと手を挙げるルナリアと顔を見合わせ、私たちが笑い合う。

「おお・・・。いつもは嫌がるルナリアが自ら」

「ありがとうございます! お嬢様、一生ついて行きます!」

ルナリアの宣言に、感動した様子のハロルド様とエゼリアさんが反応する。

アンリカさんたち、他のメイドさんチームの面々も、小さくガッツポーズしている。

ルナリアが一緒だと、お師様のしごきが緩くなるってことかな?

やれやれ、と首を振ったお師様が、ムーアの町へと目を向けた。