軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コーニッツ・ムーア制圧戦 ⑬

翌朝の夜明け前、ウォーレス侯爵領領都レティアのウォーレス家領主館前の目抜き通りには完全武装の騎馬部隊5000騎が整列していた。

戦時体制の目抜き通りには100メートル置きに篝火が煌々と焚かれ、揺らめく炎の明かりが金属甲冑に反射して 煌(きらめ) いている。

しっかりと 馴致(じゅんち) されている軍馬は落ち着いたもので、興奮して暴れることも、 嘶(いなな) くこともなく、騎士様たちを背に乗せて静かに 佇(たたず) んでいる。

中秋も過ぎれば夜明け前の一番気温が下がる時間帯は肌寒さを感じる頃だが、人馬が放つ熱気は未明の冷気を退けるどころか、列内に居ると汗ばんでくるぐらいだ。

馬列の脇を、伝令を携えた騎馬が駆ける。

堅固な城壁に囲まれたレティアの町の南北2ヶ所ある城門のうち、リテルダニア王国の内側へと向かう北門を先頭に長さ1.5キロメートル。

1列20騎250列にもなる馬列の最後尾は領主館の目の前にまで達している。

本来であれば、ルナリアや私は足手まといにしかならないので置いて行かれるはずなのだけれど、次期領主に定められたルナリアは、本陣に詰めて戦況を見届ける任務を与えられて戦場へ同行することになった。

私たちは初陣を済ませている扱いになっているのだけれど、いずれルナリアがウォーレス家を継ぐということは、いずれウォーレス侯爵家騎士団ならびに領軍を率いて戦場に出るということだから、今から戦場の空気を肌で感じて慣れさせる意味があるのだろうね。

戦争なんて、普通はそうそう起こらないのだから、希少な機会は教育に活かすのが当然。

ルナリアが行くなら、私には、私だけがレティアでお留守番するなんて選択肢は無い。

よって、私たちが乗る騎馬は馬列の最後尾付近に並んでいる。

とはいえ、私たちは自分一人で馬に乗れないし、ルナリアはエゼリアさんの馬の鞍に乗せられていて、私はアンリカさんという女性騎士の馬の鞍に同乗させてもらっている。

アンリカさんは、領主館に詰めている8人のメイドさんチームの一人で、エゼリアさんと同い年の次席にあたるピーシス家傍系の女性だ。

大きくウェーブしたボリュームのある金髪をアップに纏めた、悪戯好きな艶っぽいタイプの美人さんで、お師様に匹敵する胸部サイズを誇っている。

私たちが乗せられたエゼリアさんとアンリカさんの馬の周囲を固めるのは、他のメイドさん6人の馬で、皆さん、今日はメイドさん姿ではなく、他の騎士様たちと同じ金属甲冑で身を固めている。

ルナリアと私だけがパンツスタイルの乗馬服で、首にスカーフを巻かれたフード付きマント姿だから、異物感が半端ないよね。

どう考えても、私たちって完全にお荷物なんだよ。

今回は一気に急襲して敵の本拠地を蹂躙する電撃作戦なので、私たちという余計なお荷物を積んだ騎馬が行軍ペースに付いて行けるわけが無い。

「・・・うーん」

「どうかしましたか?」

「・・・今後も行軍に同行する機会が有りそうだから、自分一人で馬に乗れるようにならないと、って考えてた」

「ウォーレス領では男女を問わず馬に乗れるのが当たり前だから、身分に関わらず子供の頃から乗馬を習うのよ」

「・・・そうなの? それは助かる」

「来年の春にはルナリア様も乗馬を教わり始めるはずだから、フィオレ様も一緒に乗馬を教わることになるわよ」

なぜ、女性も乗馬を習うのか?

驚いたことに、ウォーレス領の人たちは、職業が農民兼業主婦の平民女性でも、腰に短剣を佩いているんだよ。

今も、騎馬部隊の出陣を見送りに通りへと出てきているスカート姿のお婆ちゃんでさえ、腰の剣帯に短剣を提げている。

王国南部地域は魔獣被害が少ないほうらしいけれど、それでも、“魔の森”に隣接していて他国から攻め入られる危険が最も高い国境の町だからこそ、領民総動員体制で戦いに臨むときは3万人の住民すべてが戦力になる。

動員される住民のほうも、自分たちの生命と財産を守るためだから、躊躇わずに戦う。

平時においても男女の区別なく大事な労働力だから、軍馬の生産も盛んなウォーレス領では、乗馬技術はすべての住民の必須スキルに位置付けられている。

本格的な有事で領内の住民がレティアに避難してきた場合、20万人を越える老若男女の全員が、自分の故郷と家族を護る戦いの修羅となるらしい。

軍馬の生産も、主要産業の一つとしてだけでなく、元を質せば戦争準備だよ?

もう、本当に、何から何まで徹底的に、戦争に勝つことしか考えていないんだね。

淡々と、粛々と、日常的に準備を整えられていた戦争が、今、始まろうとしている。

ピィイイイ、と、遠くから甲高い笛の音が聞こえてきた。

騎馬部隊を率いるハインズ様が進軍の号令を発し、先頭から順に馬列が走り始めたのだ。

馬列の先頭方向から、木霊するように近付いてくる笛の音とともに、蹄が地面を蹴る低い地響きも聞こえてくる。

「フィオレ様、スカーフで口元を覆っておいたほうがいいですよ」

「・・・あ、はい」

アンリカさんに言われた通り、グイっと首のスカーフを引き上げて頬から下を覆う。

隣の馬上を見ると、ルナリアもスカーフを引き上げている。

ほんの3~4分間で、前方の騎馬が走り始める姿が見えてきた。