軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開眼 ㉜

なぜ、そんなことを考えたのか?

遅いからだよ!

確かにルナリアが土を量産する速度よりは速い。

でも、私が3日間で作業を終えなきゃナーガ川の上流へ行かせて貰えない。

私たちが建てようとしている住居は3階建ての予定で、詳しく聞いていないけど、1フロア10戸の総戸数30戸ぐらいの建物だと思う。

必要とされている住居の数から考えて、恐らく、私たちに与えられた作業場所は200~300ヶ所ぐらいは有るんじゃないかな。

300ヶ所と仮定して、3日間で均等割すれば1日100ヶ所もノルマが有る。

朝6時から夕方4時までミッチリ作業しても10時間。

600分間しか無いんだよ。

1ヶ所に掛けられる時間は移動時間込みの6分間だ。

何度か休憩を取るなら1ヶ所あたりのタイムリミットは5分間ぐらいだろう。

今のペースじゃ、とてもじゃないけど達成出来そうにない。

じゃあ、ノイエラさんは? と居場所を探せば、もう2ヶ所目の土台が周囲の土を吸収していて作業が終盤に差し掛かっている。

エレーナさんとイディアさんも少し離れた区画で作業している姿が見えるけど、進捗はノイエラさんと似たようなものだろう。

ノイエラさんたちは3人で分担しているから3分の1の現場数で済むのに、ノルマを意識しているからか作業を進めるペースが早い。

分刻みで土の山を作って回らなきゃいけないのに、今日の作業のように壊しちゃいけないものに気を付けながらだと、力任せでは時間短縮も無理だ。

ならば、私に残された道は物量で戦力差を埋めることしかない。

本来なら、ルナリアと2人で手分けするべきなんだろうけど、1人では作業させられない。

明らかにペースが遅い自分が足を引っ張ってるだとか、もしもルナリアがおかしな誤解をした日には、私の心にダメージが入るだろう。

だから私はルナリアと一緒に作業する。

ルナリアも頑張ってるんだから、足りない物量は私の魔力の手で埋めれば良い。

何のために10本も生えてんだ。

「手」が2本じゃ足りなかったからだろう。

”必要”が技術を進化させる。

知恵と工夫をもって人類は技術を進化させ、偉大なる文明を築き上げてきた。

原始人の野生児だった私もその文明の末裔として、先人たちの進化がもたらしてくれた恩恵に預かっていた。

先人たちに出来たのなら私にだって出来るはず。

”必要”の壁を乗り越えて進化を成し遂げた先人たちの魂は、きっと私にも受け継がれている。

作業に必要な魔力の手が足りないなら、他の「手」も有効化すれば良いだけだ。

魔力制御の負荷は増えるだろうけど、なぁに、却って耐性が付く。

魔石を通す分、「手」それぞれが「質」を似せて魔力を掌握する手順が増えるけど―――、あ。いやいや。そんなわけないじゃん。

わざわざ個別の「手」を魔石に通す必要性が有る?

取りあえず、やってみよ。

「・・・むむっ。これ、難しいな」

魔石を通してから「手」を分岐させれば良いんじゃないの? と考えて、分岐させようとするけど思ったように増えてくれない。

というか、自分の手が何本も複数に分岐する具体的なイメージが湧かない。

ここの関節、どうなるんだろう? 筋肉の付き方は? それ、おかしくない? とか、すぐに考えちゃうんだよ。

違和感が仕事をして、理屈が合わないと心のどこかで否定してるんだろうか?

そんなこと言ったら魔法なんて理屈が合わないことばかりなんだけどね。

直感的に、イケそう、とか感じるときも多いのに、出来ることと出来ないことの線引きが分かんないな。

「・・・うーん?」

人間の脳は柔軟に出来ている、らしい。

どこかの大学がやってるロボット工学だかパワーアシストだか何かの実験で、“第6の指”とかいうロボットの指を追加する装置を手に装着して生活すると、直ぐに脳が馴染んで6本目の指に違和感を持たなくなるって記事が有ったんだけどな。

6本の「指」と10本の「手」なんて誤差じゃない?

指が増えて馴染むのなら手が増えても馴染むはず。

ネット掲示板の書き込みによく有った“日本の技術は世界一ィィィ!!”のフレーズが本当なら、出来ない道理は無いんだよ。

私の 精神(ソフト) は日本人なのに、まさか、 肉体(ハード) が異世界人だからサポート対象外なんて言わないよね?

「「むむむむむっ!」」

ルナリアが唸っている隣で私も唸り始めたものだから、技師さんが不思議そうに首を傾げているけど、技師さんの目を気にしていられる余裕が今の私には無い。

いいや待て待て、そうじゃない。

無駄な時間は掛けていられないけど、急がば回れだ。

作業の手を休めなければ思考を点検する時間は有る。

一旦、状況を整理してみよう。

私は10本の「手」を出せる。

ところが、たった2本しか目の前の作業に活用できていない。

今、必要なのは他の「手」を有効化して作業速度を引き上げることだ。

魔力的な持続性の観点から他の「手」も魔石を通す必要が有るけど、魔石を通した後に「手」を分岐させようとしても難しそう。

当たり前の話だけど私の両手は左右の2本しか無い。

その両手に魔石を握っていることが認識の変革を妨げてるんだろうか?

じゃあ、他の「手」が生えてる辺りに魔石を貼り付けて貰う?

生えてるのは足や肩や背中の辺りだろうか。

自分と同じ魔力だから感知しにくいけど、たぶん、その辺りなんだろう。

あ。ダメじゃん。それだと手順を減らせていないし何も解決していない。

「・・・むー」

問題はどこに有る?

結局は「分岐させられない」ってことに帰結するよね。

分岐。分岐。分岐かぁ・・・。

手が10本生えてる絵でも描いてみれば認識を変えられないだろうか。

そこで魔石を握っている自分の手が目に入った。