作品タイトル不明
開眼 ㉙
道具のことはヒマになって覚えていたら提案すれば良いか。
覚えてるかどうかの自信は無いけど。
そんなことよりも今は工事だよ、工事。
「・・・その土台は誰が固めるの?」
「イディア様たちが先行して作業に当たっていただけることになっています」
技師さんが指す指先に釣られて視線を移せば、縄張りの形状を確かめるようにノイエラさんが杭と紐を見て回っている。
あれって、頭の中で形状のイメージを作ってるのかな?
水平を取ってあると言っているのだから、その辺りは精密な作業になるんだろう。
人が間近に手で触れて横たわるのであれば、私のように「この辺が水平・垂直じゃね?」なんて適当は許されないだろうね。
感覚が鋭敏な人なら、水平も垂直も目で見ただけで誤差に違和感を覚えるらしいし、適当で大雑把な私とは致命的に相性の悪い作業な気がする。
「・・・私たちは?」
「出来上がった基礎のすぐ横に、ドッサリと土を積み上げていただければ」
技師のお姉さんが完爾と笑う。
良いね。要求基準が「ドッサリ」とかアバウトなのは実に私向きの作業だよ。
誰が作業分担を決めたのか知らないけど、私の仕事振りをよく分かってくれている。
ストップが掛かるまでドッサリ作れば良いのだろうと私は都合良く理解したけど、ルナリアはどこまでやれば終わりなのかが気になったようだ。
「どのぐらい作れば良いか分かるの?」
「埋め戻し作業にも土が必要になりますので、多めにお願いします」
「ほへぇ?」
技師さんから返った答えにルナリアは明らかに分かっていない声を上げた。
埋め戻すといっても穴を掘るわけじゃないからね。
土を圧縮して固めるから体積が減った分を埋めるから多めに土を作れって意味だと思うよ?
「始まりそうですし、見ていれば分かりますよ」
「分かったわ!」
私が慰霊碑の基礎を作ったときにも、地下の土を固めて体積が減った分を魔力で新たな土を生み出して補充したからね。
慰霊碑本体を創り出す大量の土を生み出したときよりはマシだったけど、基礎のときも魔力の消耗はかなり大きかった。
土を固める際の魔力消費を思い出してみれば、魔力の手でギュッと握りしめる感じで固めているだけだから、そんなに消耗していない気がする。
土を生み出す負担の大きさに較べれば誤差みたいなものだよ。
それを思えば、私たちに求められているものはマジカルパワーによるゴリ押しだけなのだろう。
特に私は魔石を使い慣れているから、体内保有魔力量が多い上に底無しの魔力タンクを背負って歩いているようなものだし。
ぐるっと縄張りを一回りしたノイエラさんがしゃがんで地面に手を突く。
「・・・おっ。始まりそう」
ノイエラさんの魔力が高まって地面に浸透したのを感じる。
魔力の浸透ってこんな感じなのか。
魔力の気配が変わってザァッと一面が塗り変わる感じ。
自分がやってる側だと、この感じは分かんないな。
「ハッ! 地面が動いたわ!」
足の裏に伝わる微震というか、脈動というか、ズゾゾッと地表が吸い寄せられるように縄張りの内側へ集まっていって、縄張りの部分だけが切り出されたようなステージ状に残って周囲の地面が沈んでいく。
乾いたスポンジが零れた水を吸い取るように、縄張りの地面だけが形を変えないまま周囲の土を吸収してしまった。
そこに残るのはカチカチに固められて見た目から石っぽく質感が変わった建物の土台と、土を吸い取られた周囲の穴ぼこだ。
「「ほほーう!!」」
ルナリアと私の声が重なった。
自分たちで使えるようになったからこそ違いを感じる。
何て言うんだろう?
完成時のイメージも正確なんだろうけど、それだけじゃないと思う。
これって制御の違い? すごく勉強になるよ。
そして、低くなった部分では1メートル近くも地面が下がった穴ぼこを埋め戻す量の土となれば、結構な量になるのだろうと推測できる。
そりゃあドッサリ作れと言われるわけだ。
ノイエラさんの土魔法を見つめていた技師さんが、ほぅ、と息を吐いた。
技師さんがノイエラさんに向けているものは憧憬かな?
「ノイエラ様は流石ですね。工兵部隊の魔法術師でもこれだけの早さで、しかも一発で成形できる者は数人しか居ません」
「・・・ノイエラさんと同じことを出来る人が何人も居るの? すごいね。工兵部隊」
私が素直に表した称賛に技師さんは首を振る。
「凄いのはノイエラ様ですよ。工兵部隊は土術式を主力に使いますが、ノイエラ様は戦闘部隊です。戦闘部隊の主力は火術式ですよ?」
「・・・あ。そっか」
技師さんの言いたいことも分かるな。
どう例えれば良いのか。
一流の音楽家なのに彫刻も一流だった、的な?
同じ芸術家でも方向性が違うって意味で。