軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開眼 ㉘

「そりゃあもう。自分たちの生活が掛かっていますからね」

「・・・うんうん。良いことだよ。力を合わせて一気に建てちゃおう」

「ええ。よろしくお願いします」

目的意識がハッキリしていれば一致団結して作業に取り組めるだろう。

私も頑張るよ。

「準備は出来ているのかしら!」

「いつでも。技師を付けますので指示に従っていただければ」

ルナリアに答えた兵士さんが大きく手を振って別の兵士さんを呼び寄せる。

呼ばれて駆け寄ってきた兵士さんは、工兵部隊では珍しいメガネを掛けた女性の技師さんだった。

図面っぽい丸めた紙を片手に3メートルぐらい長さがある棒を肩に担いでいる。

「私がご案内します」

何て言ったかな。この棒。

“ 標尺(ひょうじゃく) ”だっけ?

地球でも土木工事や測量作業で地面に立ててる人が居る、紅白の縞々に塗られたデッカいモノサシみたいなヤツ。

ちゃんと目盛りが切ってあって10センチメートル単位だけど数字も書き込まれているから、実際にモノサシなのだろう。

縞々の寸法が同じかどうかまでは知らないけど、こっちの世界の土木工事でも使うんだ?

意外と現代的っぽいことにも驚くけど、こんな道具がこっちの世界にも有ることの方に驚くよ。

「・・・お願いね」

「頼んだわよ!」

「お任せください」

挨拶をすると技師さんはニッコリと笑い返してくる。

そこで遠くから3の鐘が聞こえてきた。

午前6時。作業開始の時間だ。

ルナリアの肘をツンツンと突っつけば、役目に気付いて反り返る。

「さあ! 仕事を始めるわよ!」

「「「「「はっ!!」」」」」

工兵部隊も含めてヤル気に満ちた応えが返り、現場全体が忙しく動き始める。

私たちの作業がトップバッターだと思っていたんだけど、違ったようだ。

技師さんの後ろに付いて移動すれば、一部に残った畑の向こう側に有る原野そのままの空き地にはすでに杭が打たれていて、杭の頭に釘で留められた紐が張ってある。

杭と紐で囲われた四角くて大きな区画の大きさは、縦50メートル、横10―――、いや。15メートルは有るだろうか。

そんな区画が、広い平地に何十と並んでいることが見て取れる。

私たちが立っている場所は、ほんの入口なのだと感じさせられる。

城壁移動で新たに取り込まれた土地って、奥行き500メートル、横幅4キロメートルも有る帯状だもんね。

見えている範囲の区画は数十だけど、全部で数百は有るのだろう。

こりゃあ、本当に大仕事だぞ。

「・・・もう“縄張り”は済ませて有るんだ?」

「縄張りって、あの縄張り?」

ルナリアが首を傾げる。

そうそう。ルナリアは反社会的な人たちが自分たちの勢力圏を主張するときの用語を想像したんだろうけど、その理解で合ってるよ。

建築用語の方が先で、反社会的な方が用語を輸入した側だけどね。

慰霊碑を建てるときに私も縄張りをしたけど、訊かれなかったからルナリアに用語の説明はしてなかったな。

「よくご存じですね。こうやって建てる位置と範囲を決めて有りますので、土台を固める作業が最初になります。あの紐もちゃんと水平に張ってあるんですよ」

「・・・へぇぇ」

「そうなのね!」

目を細める技師さんに褒められてルナリアもご機嫌だ。

土台・・・。いや。基礎のことを言ってるんだろうな。

私のように地下数十メートルまで「足」を伸ばす意味での基礎ではなく、プレート状の、いわゆるベタ基礎的なもののことを言ってるんじゃないかと思う。

ベタ基礎っていうのは、底が平たいお皿を逆さまに伏せて地面に置くような形状の基礎のことだよ。

地面の上に水平で平たい舞台を置いちゃって、その上に家を建てる。

まあ、仮設住宅だからね。

数が必要だと何度も言われていたし、数十年間保つ完璧な建物を少数建てるのではなく、数年間も保てば良い“仮設”の建物を大量に建てる計画なのだろう。

不等沈下で建物が傾いてくるような報告があれば、基礎だけの話なら後で補強して回れば良いし。

この辺が地球の建築ではできない魔法の強みだよね。

「水平って、どうやって分かるの?」

「“ 水盆(すいぼん) ”を使うんですよ。ほら。ああやって」

ナゼナゼが発動したルナリアに、嫌な顔一つせず技師さんが答える。

技師さんが示した先では、地面に置いたお皿をいうか、アーチ状の取っ手が付いたサラダボウルみたいな器に水が張ってあって、魚釣りの浮きのようなものがピョコンと立っているようだ。

あのアーチが目盛りになってるのかな?

浮力、というか、物理法則を利用した道具をこっちの世界で見るのは珍しいな。

見慣れない道具だけど、浮きが垂直に立つのであれば、対象物と浮きを並べて横から見れば垂直も水平も計測できるという理屈は理解できる。

でもアレ、不便そうだよね。

正しく使うのにコツが必要そうに見えるし、持ち運びも大変そうだ。

道具というものは、持ち運びが簡単で嵩張らず、どんなときにも一定の性能を発揮するべきものだと私は信じている。

食い繋ぐために子供の頃から頻繁に山歩きをしていた私にとって、良い道具とはそういうものなのだ。

ガラスの管に液体を封入するガラス加工技術が有れば、建築作業用の“水平器”が作れそうだけど、提案してみるべき?