軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開眼 ⑨

”無知”とまでは言わないけど、知らないことは人の心に恐怖心を生む。

恐怖心は小さな切っ掛けで攻撃心に変わり、社会からの排斥が始まりかねない。

マイノリティにとって、世界は危険に満ちている。

”魔女狩り”だってそうだよ。

薬学や 老化予防(アンチエイジング) の知識を持っている知識人が病気や怪我を治したり若作りだったりするのを、未知なる魔法の類いだと信じたから“魔女”と呼び、宗教支配と結びついて凶作や天災地変を魔女のせいだと押し付けたものだとする説があった。

地球の歴史における”魔女狩り”は未知なるものへの恐怖心が“異端”の排斥へと結びついたもの。

魔女のアレコレで史実がどうだったかは、歴史家や研究者が調べて結論を出せば良い。

地球での人生をリタイアした私には、もう関係のないことだし、私は自分が納得した説を信じるだけだ。

そして、血の摂取について問われたサーシャさんの反応は、その手の歴史を感じさせるには十分なものだった。

「血を飲む、か」

マルキオお爺様が漏らした呟きに、ハインズお爺様をはじめ、ウォーレス家の面々が思案顔になる。

聞き覚えが有りすぎる答えだもんね。

私の感覚からすると、貧血症患者が鉄成分の錠剤を服用するのと同じに聞こえたけど。

「・・・体内保有魔力量が多かったり、血を吸った相手を眷属にしたりは?」

「いいえ。私たちの一族は西方出身なので、魔力は少ない方かと。血を吸った相手を眷属にするなんて、そんな魔法術式は聞いたことが有りませんし、私たちも持っていません」

へぇ。西方出身なんだ?

西方諸国出身だから体内保有魔力量が少ないって論理は聞いたことが無かったな。

もしかして、”魔の森”からの距離が関係してるのかな。

祝詞の超常現象や精霊信仰の伝承を思えば、”魔の森”が魔力の集積地点というか、発生地点の可能性も有るし。

そして吸血種には洗脳魔法や怪奇現象魔法も無いわけだ?

「・・・そっか。じゃあ、コウモリに化けられたり、心臓に白木の杭を打ち込まれると死ぬとかは?」

ここまで来るとオカルト方面に踏み込むけど、訊きたいことは大体訊けたからオカルト方面でも構わない。

フィクションと現実の摺り合わせの質問にも、サーシャさんは答えてくれる。

「一族が伝える忍びの技に変装は有りますが、コウモリのような小ささには変装できません。あと、心臓に杭を打たれて生きていられる生き物は居ないのでは?」

「・・・し、忍びの技!!」

忍者!?

ふおおおっ!!

ナンチャッテやニンジャじゃないリアル忍者にござるよ!!

上がって来たァ―――ッ!!

忍者にしては、すぐに気絶させられて捕まったりと鈍臭い気がするけど、それはそれ!!

「・・・変装って、どんなことするの!? 隠し道具とか、カツラを被ったり、早着替えとかするの!?」

「ええっと。私の一族は手先が器用な者が多いので、小道具作りや針仕事は得意なんです」

なぁんだ。最後の「針仕事」でズコッとズッコケそうになった。

ウォーレス家のものに似ているメイド服は自分の手で縫ったのかな?

プロ級の技術を窺わせるしっかりした縫製に見えるけど、スパイ道具を使ったり特殊メイク的なものは期待できそうに無いな。

「待て待て。フィオレ。お前は何の話をしておる」

おっと。いけない。

私が一人で上がったり下がったりしていると、マルキオお爺様が軌道修正をしに介入してきた。

だけど、私に後ろめたいことは何も無い。

サーシャさんたちが魔族ではないと私は確信を得ている。

「・・・確かめたいことが有って訊き取りをしていました!」

「確かめたいこととは?」

首を傾げるお父様の確認に、真っ直ぐ向き合って答える。

「・・・吸血種って、先天的な鉄分不足の遺伝を持つ人たち―――、ただの“貧血持ち”じゃないのかなって。髪や肌が白くて瞳が赤いのは単なる色素異常ですね」

「貧血? しきそ異常とは?」

色素は一般的じゃなかったかな?

白変種っぽいんだけど色素欠乏の症状も有るから、容姿の面はアルビノ説で説明しておこう。

そう言えばサーシャさんの目の光彩は灰色に黒縁で白変種の特徴だったな。

ホワイトタイガーみたいな感じの目。

こっちの世界にも、遺伝や貧血という言葉は有る。

きっと地球から拉致された誰かが伝えたのだろうけど、意味が通じてくれるなら私はそれに乗っかるだけだ。

お父様だけでなく、執務室内にいる全員の視線が私に集まっている。

分かりやすい例で例えれば、知識レベルが高い私の家族なら理解してくれるはず。

「・・・日光を浴びると日焼けするじゃないですか」

「うむ。するな」

ハインズお爺様に確認すると、お爺様が頷く。

「・・・農作物だって、日光の当たらない影の部分は色が薄いじゃないですか」

「そうですね」

シェリアお婆様に確認すると、お婆様が頷く。

「・・・あれって、肌に日焼けの色の素―――、色素で色が濃くなるんですよ」

「その異常が遺伝しているのが吸血種だと?」

お母様からの確認に頷いて返す。

「・・・はい。サーシャさんの肌を見てください。透けるような白さで肌の下の血管まで見えるようで、血の赤さを感じにくいですよね?」

「そうね」

視線を向けるとセリーナお婆様が同意を返してくれた。