軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開眼 ⑧

「吸血種というと、モルモーか?」

「ち、違います!」

即座に彼女が否定の声を上げた。

聞き覚えがあるようで聞き慣れない単語に私の頭が傾ぐ。

私以外のみんなの目は彼女へ集まっている。

おおぅ。まるで圧迫面接だよ。

会社役員まで揃っている面接会場で注目されて、孤立無援状態とか胃が痛くなるよね。

しかも、ウォーレス家の面々は黙ってその場に居るだけでも、とんでもない存在感を全身から発しているような人たちだ。

「・・・モルモーって何だっけ?」

「魔族領域の吸血種よ」

「・・・はー。そうなんだ」

ルナリアが答えてくれたけど、魔族領域の人種を私は詳しく習っていないからなあ。

とはいえ、ルナリアが口にした「魔族」という単語は、ちゃんと前世の記憶と結びついた。

どこで聞き覚えが有ったのかと記憶を探れば、地球の伝承に「モルモー」という魔物の名前が有ったことを思い出す。

何だっけな? ギリシャ神話? 北欧神話では無かったんじゃないかな。

確か、牛の魔物か何かで、吸血の伝承も有ったように記憶している。

配慮不足というか、酷い話だよね。

1000年以上も昔から地球人を拉致してきたのだから、地球の伝承に出てきた魔物の名前を「似てるから」と現地人に名付けた地球人が居たんだろう。

でもまあ、現代の倫理観で言えば心ない誹謗中傷の元になる配慮不足だけど、歴史の中の昔の人にまで現代の倫理観を押し付けようとする方がナンセンスだ。

今後も類似する人種でトラブルが拡大する恐れが有ることを思えば、先入観と偏見を持たないように人種の特徴を学んでおく必要が有りそうだなあ。

近いうちにお母様かお婆様に聞いてみよう。

否定の声を上げた彼女に、ハインズお爺様の目が向け直される。

「違う、というのは?」

「私たちヴァンパイアは人間です! 魔族とは何の関係も有りません!」

「ふむ?」

お爺様が困ったように首を傾げる。

明確な否定も彼女の自己主張に過ぎなくて、残念なことに「相違」の証明になっていない。

魔族といえば、一族の始祖で有るレティア卿が500年前に敵として戦った相手だ。

レティア卿の末裔として、彼女が魔族に類する人なのかどうかは無関心では居られないのだろうね。

「ヴァンパイアの身体的特徴の一つに“赤い眼”という記述が有ってな。お袋殿の指摘は、それだ」

「目は灰色のようだが、確かに瞳が赤いな」

らちが明かないと思ったのか、お母様が補足して、お爺様が彼女の目を覗き込む。

可哀想に。

お爺様たちは迫力が違うからなあ。

覗き込まれた方の彼女は迫る凶相に背筋を震わせて硬直している。

お爺様は伝説級の武人でも有るし怖いよね。

そんな彼女の緊迫感もどこ吹く風で、マイペースなウォーレス家の面々はいつもの調子だ。

「フレイア?」

「あー。“お母様”の指摘がな」

お母様の言葉尻に反応したシェリアお婆様の指摘に、話の腰を折られたお母様が訂正を入れた。

ちゃんと「お母様」と呼んで欲しいお婆様にホッコリはするけど、このままじゃ話が進まないな。

仕方ない。我、突撃ス!!

「・・・ね。先ずは、あなたの名前は?」

「あっ! 大変申しわけございません! 私はグライアレー侯爵領、ハーク家のサーシャと申します!」

助けに入ると、白い彼女―――、サーシャさんが我に返った。

バッと起立してお行儀よく深々と腰を折る。

折り目正しい所作も出来るんだね。

ちゃんと教育を受けてきていることが察せられる所作だった。

いきなり気絶させられて、目が覚めたら牢屋で縛られていて、宰相さんの命令が有るから私以外に情報を明かすことが出来なくて、牢屋から出して貰えたと思えば強者の空気をダダ漏れさせている人たちに取り囲まれているのだから、サーシャさんがウォーレス家の空気に翻弄されたのも無理はない。

お爺様たちと初めて会った日も、お婆様たちと初めて会った日も、私もすごく緊張したことを思い出した。

「・・・サーシャさん、ね。訊いて良いかな?」

「私にお答えできることでしたら、何なりと」

軌道修正に乗ったサーシャさんが素直に頷く。

「・・・サーシャさんって、日光に弱かったりする?」

「い、今の季節はまだマシですが、日差しを浴びると肌が赤く腫れ上がったり、強い日差しの下では眩しすぎて目を開いていられません」

紫外線に対する弱さはアルビノの一般的な症状だね。

明後日の方向から投げ付けた私の質問に首を傾げながらも、サーシャさんは丁寧に答えてくれる。

ついでだから、昔から私が吸血鬼に抱いていた疑問もぶつけてみるか。

吸血鬼って貧血じゃないのかと、ずっと思ってたんだよ。

「・・・ふむふむ。目が悪かったりする? 朝が弱かったり、目眩や頭痛の症状が有ったりは?」

「はい。一族の者は大抵、朝が弱く頭痛持ちです。視力が弱い者は特にいなかったと思いますが」

およ? 一族みんなが白いの? 視力も悪くない?

じゃあ、アルビノじゃなく白変種?

白変種は病気じゃないから色素欠乏の症状は無かったと思うけど、アルビノの症状と混じってる?

でも、私が抱いていた吸血鬼のイメージは間違ってなかったっぽい?

アルビノかどうかは、この際、どうでも良いな。

「・・・吸血って、本当に人から吸うの?」

「家畜を絞める際に血を飲む程度で、人の血を吸うようなことは有りません!」

よく受ける質問だったのか、サーシャさんは強めの拒否反応を示して大きく首を振った。