軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開眼 ⑦

「ミセラ。あの者を牢から出してやってくれ」

「はっ」

お父様の指示にミセラさんが応え、ミセラさんにマーシュさんが付いていった。

ミセラさんたちの背中を見送ったお母様の目が、難しい顔に戻ったお父様へと向けられる。

「親父殿たちも起きて来る頃だろう。執務室で良いか?」

「ああ。母上たちにも聞かせた方が良いだろう」

お父様の判断に頷いて、お母様は後ろに控えているレヴィアさんへと顔を振り向けた。

「お袋殿たちに執務室へ来るように伝えろ」

「他の方々には?」

レヴィアさんからの確認に、ほんの数秒間の思考でお母様は判断を下す。

私たちが寝入った後にちゃんと無事に帰ってきたらしいお爺様たちは、起こしに行かなくても執務室へ来るってことだろうね。

「イディアとエレーナとノイエラが帰っているから、先にメシを食っておくように伝えておけ。あいつらは3の鐘から住居建設の手伝いが有る」

「承知しました」

会釈で返したレヴィアさんは即座にスカートを翻し、足音もなく階段を駆け上がっていく。

エレーナさんとノイエラさんだけでなく今日はイディアさんもか。

イディアさんは弓がメッチャ上手いけど、どちらかといえば魔法寄りで土魔法も上手いものね。

建設工事のお手伝いに使えると数え上げた魔法使いを呼び戻してまで総動員するつもりらしいところに、住居建設の緊急性が表れている。

建築資材を用意する役目の私たちって、かなり重要な役割なんじゃ?

私たちの仕事が遅いと全部の作業が止まる可能性が有るってことだよね。

カシャン、ジャラジャラと廊下の奥から金属音が聞こえてきて、しばらく。

コツコツと石畳を踏む1人分の足音だけを響かせて、ミセラさんとマーシュさんにエスコートされた白い彼女がやって来た。

「お連れしました」

「あの・・・」

解放されたというよりも、来客扱いかな。

打って変わった丁重な扱いに彼女は赤い眼を揺らしている。

何をどうすれば、そうなるのか分からないけど、ミセラさんたちとは微妙に生地の色や質感が違うメイド服には、ロープで縛られていた痕跡を示すシワもスカートの乱れもない。

私に分かるのは、白い彼女の身だしなみを整えてあげたのがミセラさんたちだろうということぐらいだ。

革のブーツを履いているミセラさんたちの足音がしない謎も謎のままだし、考えるだけ無駄だろう。

お母様は服装を確認するように彼女の全身を流し見た。

「付いて来い」

「えっ? はっ?」

対応の極端な変化で戸惑っている彼女に一言告げたお母様は、平然と背中を見せる。

敵では無いと判明しただけで背中を見せるお母様の割り切りに驚くのは分かるけど、これは油断しているのではなく、“絶対に負けない”というお母様の自信の現れだろう。

もしも彼女が攻撃に出る素振りでも見せれば、腰のサーベルで即座に斬られると思うよ。

「・・・良いから良いから」

彼女の後ろへ回って、両手で背中を押す。

まだ受け入れられたわけではないから、試練は終わったわけじゃない。

彼女も緊張を保っている現状が正解で、気を抜いて貰っては困る。

階段を上がって地下牢を出て、まだ空が白んでいない中庭を横断して地上階の階段を上がる。

領主執務室のソファーに腰を下ろして程なく、お爺様たちもお婆様たちも入室してきた。

一足先に執務室へ入ったレヴィアさんの報告では、連絡員の経緯は伝えてくれて有るらしい。

ミセラさんたち以外の全員が腰を下ろし、ハインズお爺様の隻眼が白い彼女を見据える。

「この娘が?」

「宰相がフィオレに付けた連絡員だそうだ」

「ふむ・・・」

お爺様の問いにお母様が答え、お爺様が困惑を含んだ唸り声を漏らす。

いつもの思案中ポーズで彼女をじっと見ていたシェリアお婆様が 徐(おもむろ) に口を開いた。

「貴女。もしや、 吸血種(ヴァンパイア) では有りませんか?」

「はい・・・」

お婆様の指摘にビクリと肩を震わせて、彼女は小さく身を縮める。

消え入りそうな彼女の返事に、私もルナリアも瞬時にテンションが爆上がりした。

「・・・吸血種!?」

「初めて見たわ!!」

無粋で失礼だとは思うけど、ついつい凝視してしまう。

お爺様たちの視線も私たちと似たようなものだ。

「ああ~」

シェリアお婆様の指摘で思い出したようにしているお母様は、ポンと手を打っている。

凝視されている彼女も不躾な視線が集まって居心地悪そうにモジモジしている。

見世物にされたようで可哀想だけど、こればかりは仕方ないと思う。

肌と髪と目の色以外は私たちと何ら変わりがないんだから。

エクラーダ人の私なんて、知らない人から見れば誤差レベルの違いしか無いように見えるんじゃないかな。

亜人種族と呼ばれる人たちの中でも“吸血種”といえば 稀少(レア) らしくて、滅んだエルフ族を 超絶稀少度(SSR) とすれば吸血種は 超稀少度(SR) ぐらいの扱いと聞いている。

いや。こっちの世界の人たちがゲーム内アイテムみたいにSSRだのSRだのと言うことは無いから、感覚的に私が抱いたイメージだけどね。

私が「血を飲みに森へ行きたい」と言ったときに、テレサの護衛に就いていた騎士様が私のことを「吸血種ですか?」と訊いた、あの吸血種だよ。

「・・・うーん。そういうことかぁ」

こうして実物を目の当たりにすると、騎士様が私を吸血種と疑ったのも頷ける。

あの疑問には、容姿が似てるって意味も有ったんだね。

私を見慣れているお爺様たちでさえ、私と彼女を見比べているぐらいだし。

並べてみれば違いは分かると思うけど、「白っぽい」という見た目の 記号(アイコン) で括れば確かに方向性は似ている。

首を傾げたハインズお爺様がシェリアお婆様を見る。