軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開眼 ⑩

「・・・要は、肌が弱いだけじゃなく、血が薄いんです」

「それで“貧血持ち”か」

お父様からの確認にハッキリと頷く。

肌の色と血の関係性はこじつけが入ってるかな。

私がサーシャさんに確認を取ったのは 先天性白皮症(アルビノ) の基礎的な症状と、貧血症の基礎的な症状だ。

この複合的な症状を前世の記憶に触れない形で言い表すのは難しい。

だったら、見て分かる肌の白さと血の薄さでこじつけた方がイメージしやすいはず。

事実かどうか、正確かどうかは二の次で良い。

「・・・吸血―――、違いますね。血を飲む行為も貧血を補うための生理的な欲求かと」

「だから魔族ではないと」

ハインズお爺様へと視線を戻してハッキリと頷き返す。

きっとサーシャさんたちは、障害を持つ”ただの人間”なのだ。

先天性白皮症は遺伝子的な色素欠乏の症状だから、紫外線に弱く日差しを浴びると肌が炎症を起こす。

貧血症は血中の赤血球が少なかったり赤血球が小さかったりで、酸素の運搬に支障を生じる症状だったはず。

ヘモグロビンだったかクックロビンだったかが、どうのこうのってアレだよ。

よく覚えていないけど、どのみち病院で処方される貧血症のお薬は鉄成分補給製剤のはずだ。

鉄成分補給製剤なんて生理が酷いときにも処方されるお薬だと聞いた。

私は処方された経験は無かったけどね。

虫下しを飲まされた程度の健康体野生児は、産婦人科のお世話になった経験もゼロだったし。

鉄成分補給製剤の服用が普通のことだったら、血を飲む行為に忌避される理由がどれだけ有る?

どっちも鉄成分の経口摂取じゃん。

経口摂取でどれだけ鉄成分の補給が出来るものなのかは知らないけど、無いよりはマシなはず。

だって、生理の貧血対策で鉄の玉を口の中でコロコロと舐めてる人も居るって聞いたことが有るよ。

スキヤキ鍋で鉄成分が補給できるのと同じ理屈なんだってさ。

ただし、こっちの世界は医療技術や医学知識が発達しているとは言い難い。

似た目が真っ白で人目を引く上に貧血を補うために血を摂取するとなれば、特異な種族と忌避されることも有るだろう。

でも、サーシャさんたちがしていたことは、私が体を強くしようと血を飲んだのと同じことだ。

獲物の血に体内保有魔力量増加の効果があると知っているウォーレス領の人たちなら、サーシャさんたちに忌避感は持たないはず。

「・・・そうです。症状を聞いて確信しました」

「ふむ」

お爺様たちが唸るけど、さっきまでよりも纏っている空気が柔らかい。

サーシャさんたちの手先が器用というのも、日差しの下へ出られないから屋内作業で生計を立てていたんじゃないかな。

縫製技術に優れているのも、日差しの下に出るには、日差しを遮る一般的ではない衣服の必要性に迫られたからではないだろうか。

想像の域を出ない憶測が多分に含まれているけど、一応の説明は付く。

「サーシャと言ったな。君らは西方の民なのか?」

「西方と申しましても、小国連合諸国の西端、ジュノー王国に住まわっておりました」

お父様の問いにサーシャさんが答え、その答えにザワッと執務室の空気が揺らいだ。

また旧ジュノー王国か。

少し重くなった空気を振り切って口を切ったのは、今まで黙って事の成り行きを見守る姿勢だったセリーナお婆様だ。

「旧ジュノー王国の民が、なぜグライアレー領に?」

「私が生まれる以前のことですが、ジュノー王国が勇王軍に滅ぼされた際、”双子姫”様の伝手を頼ってリヒテルダート公爵領へ逃れたそうです」

珍しいことにセリーナお婆様が感情を隠しきれない様子で表情を曇らせた。

そりゃあそうか。

旧ジュノー王国といえば、セリーナお婆様のお母様の出身国だ。

カレリーヌ様の心に傷を残した国でも有る。

恐らく、カレリーヌ様の妹でありセリーナお婆様のお母様である、えーっと・・・。何てお名前だったっけ?

セリーナお婆様が目を伏せる。

「リヒテルダート公爵領は・・・」

「西方との関係悪化を招くとリヒテルダート公爵領では受け入れていただけず、ラフィーヌ様のお取り計らいで、グライアレー侯爵領で受け入れていただけたと聞いております」

静かに答えるサーシャさんの声に、痛みに耐えるようにセリーナお婆様が眉根を寄せる。

「お母様が、ね・・・」

そうだ。ラフィーヌ様だよ。

サーシャさんの答えで思い出した。ルナリアの曾お婆様だ。

”双子姫”ってことは、カレリーヌ様とラフィーヌ様って双子の姉妹だったんだね。

セリーナお婆様に気遣うような目差しを送ったシェリアお婆様が、サーシャさんに視線を戻し、重みのある声で告げる。

「こちらはセリーナ・ウォーレス元公爵夫人。ラフィーヌ様のご息女に当たられます」

「ご、ご尊顔を知らぬこととはいえ、ご無礼をいたしました! ラフィーヌ様より賜ったご恩、我ら一族は一時も忘れたことはございません!」

ハッと目を瞠ったサーシャさんは慌ててソファーから腰を上げ、セリーナお婆様の前に膝を突いた。

サーシャさんへ目を向けたセリーナお婆様は悲しそうに首を振る。

「お顔を上げなさいな。貴女たちを含め、ジュノー王国の民を助けられなかったこと、お母様も叔母様も酷く悔いていらっしゃったわ。お二人に代わって謝罪します」

顔を上げたサーシャさんに、セリーナお婆様がスッと頭を下げる。

これは仕方ないかな。

カレリーヌ様のトラウマになった事件なんだから、ラフィーヌ様のトラウマにもなっただろう。

そっかぁ。ラフィーヌ様の口利きで宰相さんがねぇ・・・。