軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

迫る影 ㉞

「私たちは、あの人たちを待ちますからね」

「お爺様たち、帰って来られるの?」

シェリアお婆様の宣言にルナリアが心配そうな表情になる。

クスリと笑ったセリーナお婆様はルナリアの頭を撫でて、西の空へと目を向けた。

「今日は遅くなるかも知れないわね」

「そっかぁ」

心なしか元気が無くなったルナリアの視線も西の空へ向く。

お爺様たちを心配―――、ううん。そうじゃないな。

きっと不安なのだろう。

今までも、戦争の度に家族間でこんな感じのやり取りが有ったのだろうと想像できる。

このルナリアの反応は立て続けに家族を亡くしたせいも有るんじゃないかな。

今回はウォーレス領内から出ないし、お爺様たちは戦いに行ったわけじゃないから危険は無いはずだけど、疲れ果てた多くの戦災難民が押し寄せている状況は十分に不安を掻き立てるものだ。

危険な場所へ赴いているお爺様たちの身を案じる気持ちはお婆様たちも同じだろうし、戦場へ出ないお婆様たちは不安を抱きながら無事の帰りを待つことしか出来ない。

お母様たちが西部地域へ戦争に行っている間、私も同じ気持ちだったことを思い出す。

無事に帰ってくると信じていても、じわじわと胸の奥深くを蝕んでくるような不安感になんて慣れるわけが無い。

置いて行かれた家族は、こんな気持ちを何度も繰り返し味わってきたんだと思うと堪らなくなった。

隣に立つルナリアの肩をグッと抱き寄せる。

「フィオレ?」

キョトンとするルナリアの頭にコツンと頭をぶつける。

大丈夫だと伝えてあげたかった。

「・・・お爺様たちは強いんだから、ちゃんと帰ってくるよ」

「うん・・・。そうよね!」

伝わったかな?

頷き返したルナリアの声に元気が戻る。

いざとなったら私がルナリアを背負ってお爺様たちを助けに素っ飛んで行くからね。

魔力の「足」で文字通り素っ飛んで行くよ。

馬を走らせると休憩を取らせてあげる必要が有るけど、魔力の「足」なら魔石の魔力と私の集中力が続く限りノンストップで急行できる。

「さあ。貴女たちの今すべき仕事は明朝に備えることでしょう?」

ルナリアと頭を寄せ合ってグリグリし合って元気を分け合っていたら、横合いから伸びてきたシェリアお婆様の手に頭を撫でられた。

「後はお任せください」

「難民たちへの説明と明朝からの動員の段取りは我々が」

シェリアお婆様の後にエターナさんと魔法術師さんが続いて背中を押される。

「任せるところは任せる」と反省したばかりだったな。

なら、私がどうするべきかは答えが出てる。

信じるんだ。

ルナリアの肩を抱いたまま背筋を伸ばし、みんなの顔を見回す。

「・・・分かった。じゃあ、後はお任せします」

「良いの?」

私の小さな心境の変化を感じ取ったらしいルナリアに頷き返す。

信じるべき人たちを信じて任せ、私は私の役割に全力で取り組む。

何でも自分で完結させようとするんじゃなく、頼って良いんだ。

一人ひとりが全力を尽くし、全力を持ち寄って作り上げる。

当たり前と言えば、当たり前のことだ。

それが社会というものなんだから。

そのぐらいのこと分かっているはずなのに、意外と難しいんだよね。

でも、それって信じてないってことの裏返しになるんじゃないかな。

私はみんなに出会うまで、誰かの助けをアテにすることがなかった。

アテにしたところで誰も助けてくれないし、誰かに期待するだけ無駄だと信じていた。

みんなと出会って、そうじゃないと気付いたはずなのに、本質では信じられていなかったんだろう。

「信じる」って、きっと、不安で辛くて苦しいことだ。

それでも、信じて任せ、待つんだ。

西の空を見つめていたセリーナお婆様の姿は、きっと、そういうことなんだ。

お爺様たちの帰りを信じて待ちながら、不安に負けず呑み込んでいたんだ。

シェリアお婆様も、きっと、そう。

私はお婆様たちの背中に学ばなきゃいけない。

「・・・ここは甘えさせて貰って、私たちは私たちの仕事に集中しよう」

「そうね! 分かったわ!」

みんなと挨拶を交わしてルナリアと一緒に背中を向ける。

お婆様たちの護衛にはレヴィアさんたちが残った。

エターナさんたちと一緒に残るお婆様たちに見送られて乗馬訓練場を後にした私たちには、ディディエさんたちが付く。

そして、領主館へ戻る道中でいつの間にか合流していたメイドさんたちに、館内へ足を踏み入れた途端に浴室へと拉致された。

丸洗いの後、晩餐をいただく時間になっても、お爺様たちもエゼリアさんたちも戻らなかった。

お母様たちとお婆様たちとノーアと私たちで食事をいただきながら、エイラさんとの模擬戦でのルナリアの武勇伝を報告したのだけれど、デレデレになってルナリアを褒めるお父様の表情にも、デレデレの中に安心が見て取れた。

きっと、お父様も不安を飲み込みながら未来を担うルナリアの成長を信じているからなのだと、安心した表情の意味を理解できた。

食後のお母様たちはティールームへ移動して、お婆様たちと諸々を話し合うそうだ。

ルナリアとノーアと一緒に部屋に戻って歯を磨いた私は、早々にベッドへ放り込まれた後の夜中にノーアが大活躍するとは思ってもみなかった。