軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

迫る影 ㉝

煽ってその気にさせたとしても、そこには、それぞれの自由意志が有る。

私がやる、みんなにさせる、ではなく、一緒にやらなきゃダメなんだ。

そう言えば、ルナリアはいつも一緒にやると言ってくれてたな。

両の手のひらで自分の顔をペチンと両側から挟み込む。

「・・・ヨシ」

切り替えよう。

任せるところは任せる。

みんなで作る。

私に任された仕事を全力でやる。

私が気持ちを切り替えたことを察してくれた魔法術師さんが具体的な説明を始める。

「それで、お願いしたいのは資材を生み出す土術式なんですが、量が必要になります」

「・・・作業を分担制にするんだね?」

私には城壁のときに見せたコピペ魔法をお望みらしい。

食肉加工場に持ち込んだ工場制手工業の建築バージョンだね。

食肉加工場ではお肉の方が工程ごとに移動したけど、建築工事では大工さんや職人さんの方が現場を移動する。

工程ごとの専門職人さんが順繰りに現場に入る分担制で、現代地球の建築工事現場でも同じようにしていたはず。

「とにかく数が必要だという話ですし、非常動員の人員が殆どになるでしょうから、“コレ”という決まった作業を割り振って、個々が覚えるべき仕事を減らすことで数押しします」

「・・・分かった。具体的にどうすれば良い?」

効率という意味でも私に異議はない。

「明朝、3の鐘から作業に着手で、北門前から左右へ順に資材を用意していただければ」

ふぅん。北門前から左右ってことは、城壁移動で城壁内に取り込んだ土地を使うんだね。

耕された農地以外の原野もかなりの広さがあったはず。

そこに住宅が並び建つ景色を想像して、本当に仮設住宅だな、と感じた。

仮設と言っても、こっちの建物は日本のプレハブ住宅みたいな建物ではないから、石造りの集合住宅が団地みたいになるのかな?

木造住宅を建てるには伐り出した木材を年単位で乾燥させる必要が有ったと思うから、土を魔法で固めて石材にする方法を採るのだろう。

その方法なら、石材の素となる土さえ有れば大量に作り出せる。

「建てる方は手伝わなくて良いの?」

コテリとルナリアが首を傾げる。

まだルナリアはやったことが無かったと思うけど、魔力で掌握した土をギュッと固めるだけだから、ルナリアなら教えれば直ぐに出来るようになるだろう。

土を生み出した後で土台となる基礎の部分を固めて作るぐらいなら、大した手間ではないと私も思わなくもないな。

でも、建物となると私も自信が無い。

手抜き工事の建物みたいになる予感しかしないんだよ。

魔法術師さんがニヤッと口角を引き上げる。

「コツが必要なんですよ」

「コツって?」

ルナリアの首の傾きが角度を深める。

「我々のような工兵は建設や撤去に特化しています。水平や直立や強度や均衡や手順のアレコレですね。逆に我々は、戦闘向きの術式はからっきしなんですが」

「「へぇ~」」

水平・垂直・強度・バランスか。

やっぱりなあ。

魔法術師さんは苦笑するけど納得してしまった。

ナナメになったり弱かったりバランスが悪かったりすると、倒壊したり戸が閉まらなかったりするんだろう。

床が傾いた家で暮らしていると体調を崩す、なんて研究論文の記事を何かのときに読んだ気がするな。

水平や垂直を感覚だけで作る訓練とか、してるんだろうか?

1パーセント傾いても10センチメートルで1ミリメートルの誤差だからね。

1メートルで1センチメートル、10メートルで10センチメートルも傾くことになる。

それを正確に、高い精度で建物の形状に土魔法で作るのか。

コツっていうのは、その辺りのイメージだろうか、精度の方だろうか。

専門の訓練を積み重ねたプロフェッショナルってことだ。

思えば採掘場のリフトも、高さ20メートル以上の櫓がちゃんと垂直に立っているように見えた。

私が気付いて居ない場所で専門技術を活かして精密に調整していたんだな。

「作業場所へ案内する兵士が付きますので、片っ端からやっつけていただければ」

「案内された場所に土を生み出すだけで良いのね?」

納得した様子のルナリアが頷くと、魔法術師さんは男性らしい力強い笑みを浮かべる。

「その後は我々にお任せください。工兵部隊の技術をお見せしますよ」

「・・・分かった」

「わたしも! パパッとやっつけてあげるわ!」

言うねえ。

ルナリアも力強く返して魔法術師さんが嬉しそうな笑みを浮かべる。

みんなのアイドル、ルナリアちゃんだからね。

話が終わったと見て取ったセリーナお婆様がパンと手を打った。

「打ち合わせが終わったなら、貴女たちは戻りなさいな」

「・・・えっ? でも、お婆様たちは?」

思わず聞き返してしまう。

戻れ、って、今日は終われということだろう。

「・・・あっ」

そこで空の色に赤味が増していることに気付く。

ああ。そっか。お昼ご飯を食べたのも今日は遅めだったっけ。

もう夕方近くて、何事もなければ浴室で丸洗いされ始める時間帯だものね。