軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

迫る影 ㉟ ※アンサンブルキャスト面

何枚も重ねられた毛布の下敷きになっている3つの盛り上がりが、一定間隔で僅かに上下している。

明かりが落とされた室内は静まり返っているが、完全に無音なのかといえば決してそうでは無い。

静かに、穏やかに、冬の未明の冷たく冴えた空気を吸い込めば盛り上がりが大きくなり、吐息を吐けば盛り上がりは小さくなる。

大人が3人並んでも十分に眠れる大きさがあるベッドの真ん中、3つの中でも最も小さな盛り上がりが、もぞりと動いた。

もぞもぞと右側に寄り、もぞもぞ。

左側へもぞもぞと寄ったかと思えば、また、もぞもぞと真ん中へ戻ってきた。

ムクッと起き上がった寝癖頭の天辺で、何かを探すようにピクピクと猫耳が動く。

「・・・・・・にゃ・・・」

眠そうに半分潰れた金色の眼の瞳孔は、窓ガラスを通して差し込んだ月明かりを漏れなく集め取ろうと開ききっており、面積を減らした光彩を目立たなくさせている。

10秒間ほど動かずにいた小さな頭がクルッと扉の方を向き、じーっと扉を見つめる。

再びピクピクと猫耳が動いてピタリと一方向で止まる。

僅かな音も聞き漏らすまいと意志を持った猫耳が注意を向けているのは廊下に続く扉だ。

毛布の下へ柔らかい茶色の寝癖頭がシュッと引っ込み、左側に覘いている銀髪頭の腕を毛布の中でクイクイと引く。

いつもなら目を覚ましてくれるのに、昨日は色々と忙しかったらしい姉様は静かに呼吸するだけで目を覚ましてくれない。

毛布の中でもぞもぞと動いて右側に覘いている金髪頭の腕をクイクイと引いてみる。

こっちの姉様は一度眠ったら滅多なことでは朝まで目を覚まさないので早々に諦めた。

毛布の下から再びヒョコッと寝癖頭が起き上がり、じーっと扉を見る。

再び毛布の下へシュッと寝癖頭が引っ込んで、毛布の下の盛り上がりがもぞもぞと動く。

もぞもぞもぞもぞと下方へ盛り上がりが移動して、足元側の毛布の裾から音も無く小さな白い塊が落ちた。

床に丸まった小さな塊は白い夜衣の裾を踏ん付けないように気を付けて、シーツの裾を捲り上げて潜り込む。

ここは宝物の隠し場所だ。

母様がくれて姉様が返してくれた首から提げる小さな革袋や、初めて倒した獲物の魔石や、初めて握らせて貰った木の剣や、気に入ったガラスの瓶が隠してある。

頭の上からは姉様たちの寝息が聞こえてきて、1人じゃないと安心する。

姉様たちはいつも守ってくれて、元気をくれる。

「ノーアがまもるばん」

柔らかい絨毯の床にペタリと伏せてもぞもぞと移動する。

両耳はお部屋の扉へと向いたままだ。

お部屋の奥にある扉をチラッと見る。

きっと、控え部屋にいるアレーナさんを呼びに行くと間に合わない。

不寝番を除いて殆どの人間が寝静まった領主館の廊下を歩く、聞き覚えのない誰かの足音。

足音を立てないように、そろりそろりと歩いているけれど、ノーアの耳は知らない足音を聞き逃さない。

気配を隠してゆっくりと近付いてくるけれど、ノーアは知らない気配を見逃さない。

フィオレ姉様がルナリア姉様に教えているのを聞いていて、フィオレ姉様が教える通りに母様が真似しているのを真似していたら、ノーアも生き物の気配が分かるようになっていた。

知らない誰かの気配と、ほんの微かな足音とスカートの布が擦れる音と抑えた息遣いが、この部屋に近付いてくる。

たぶん、この部屋を探している、と、予感がノーアに囁く。

ノーアも息を殺して転がっているガラス瓶に手を伸ばす。

この瓶はお爺様たちが飲んでいたお酒の瓶で、フィオレ姉様の髪みたいに薄い青色がかっていて綺麗だから、お爺様にねだってノーアが貰ったものだ。

姉様たちが忙しい日や危ないことをする日にノーアは連れていって貰えないから、姉様たちが居ない日のお昼寝のときはこの瓶と一緒にベッドで丸まって眠っている。

これはノーアの大事な宝物。

姉様は強い。

だから、姉様と似ているこの瓶は強い。

絨毯とシーツの隙間から、じーっと扉を見つめる。

「(きた)」

そーっとそーっと近付いてきた誰かの気配が扉の前に立った。

扉の取っ手が音も無く動いて、スゥッと扉が開く。

扉の隙間から覘いたのは赤い眼だった。

暗くて顔は見えないけれど、暗がりに光るような赤い眼に全身の毛がビビビと逆立つ。

影になった赤い眼の誰かは音を立てないまま扉を閉めて再びこちらを向く。

ノーアが見つめていることに気付いて居ない様子の誰かは、足音を立てないように姉様たちが眠っているベッドへ近寄ってくる。

3メテル・・・。2メテル・・・。1メテル・・・。

「(いま!)」

シーツの下からノーアが両手で押し出した瓶は、迫ってきた人影の足元へと絨毯の上を転がる。

音も無く転がった瓶は、吸い込まれるように人影の靴裏の下へと潜り込んだ。

「―――ッ!?」

靴裏へと掛けられた体重は瓶の上で前方へと転がり、人影はフッと真後ろへ傾いて行った。

蹴り転がされて返ってきた瓶をノーアがハシッと猫キャッチするのと同時に、床と水平になるまで傾いた人影から、ゴチン!! という固い音と、思ったよりも幼い悲鳴が聞こえてきた。

「ぎゃんっ!!」

ドッタンバッタンと絨毯の上で転がる人影に、大好きな姉様に似た瓶の強さをノーアは確信した。

うん。やっぱり姉様は強い。

もぞもぞとベッドの下から這い出したノーアは、床に1人で暴れている人影の傍を回り込んで顔を覗き込む。

「いったあああああああっ―――、へっ!?」

真下に見える赤い眼が覗き込むノーアの姿を捉える。

いや。ノーアが頭上に高く構えている空のワインボトルに気付いたのか。

赤い眼の中に真上から覗き込むノーアの影が映り込んでいる。

ガラス瓶を掲げていたノーアの両手が振り下ろされる。