軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

迫る影 ③

「トラヴァス卿! 無事だったか!」

「フォルティン卿。閣下たちの御前です」

驚きと共に声を明るくしたエバンさんに、小さく溜息を吐いたエターナさんが首を振る。

「あっ! こ、これは失礼を!」

窘(たしな) められたエバンさんが恐縮する。

感情直結型の 気(け) が有るっぽいけど、脳筋は思考の半分以上を筋肉でするからね。

この程度は珍しくも無い。

ほら。お母様も、どうでも良さそうに首を振ってるし。

「くだらんことは構わん。そんなことよりもだ。フィオレはエクラーダから逃れてきた民を、ウォーレス領とピーシス領で受け入れるつもりでな。お前たち 父娘(おやこ) も含めてだ」

「フレ―――、フィオレ様」

お母様から伝えられた情報に感激した表情で私を見るエバンさんを、ジロリと睨んで圧力を掛ければ、失言し掛けた名前を言い直した。

私が下したフレーリア禁止命令はちゃんと覚えているみたいだし、今回はセーフ判定にしてあげよう。

視線を感じて顔を振り向ければ、お父様が私とエバンさんを見比べている。

ニコリとお父様に笑い返せば、小さく溜息を吐いてエバンさんに目を向け直した。

今の溜息は何ゆえ?

「その上で君に訊いておきたい。王城務めだった君は、どうやって王城から逃れた?」

「グリズ将軍閣下から託されたのです。何としても包囲網を突破して肖像画をエリステ公爵家へ届けるようにと」

疑いの目を向けられていることを理解したのか、エバンさんは表情を引き締めて居住まいを正している。

聞いたことのない固有名詞が二つも出てきたぞ。

他国の事情まで把握していないから、何が本当で何が嘘かなんて分かんないよね。なんて考えていたら、お母様たちはそうでも無かった様子。

「グリズ閣下か。あの爺さん、まだ現役だったのか」

「面識がございましたか」

「昔にな。軍議で何度か会った」

エバンさんも驚いたようだ。

他国の将軍様を「あの爺さん」呼ばわりするお母様に、私も驚いてるよ。

鎌倉幕府や江戸幕府の将軍様とは違うのだろうけど、将軍様って軍事部門のトップじゃないの?

いや。鎌倉幕府と江戸幕府も天皇陛下が国のトップで、将軍様は軍事部門のトップだったんだっけ。

今どき将軍様が名実共に国のトップなんて北の―――、ゲフンゲフン。

驚かれてもお母様は軽く肩を竦めただけだ。

「それで、グリズ閣下は?」

「恐らくは、王城陥落の際に・・・」

お父様の問いにエバンさんは沈痛な面持ちで首を振る。

「そうか」

「老獪な御仁だったが、残念なことだ」

古い知己の訃報にお母様とお父様も目を伏せる。

そこで、ふと聞き流していた単語を思い出した。

「・・・肖像画?」

「はい。オルレーシア妃と、その・・・フレーリア姫殿下の」

私が首を傾げると、エバンさんが言い辛そうにフレーリア禁止命令に抵触するNGワードを口にする。

エバンさんは肖像画について証言しただけで、私に対して言っているわけじゃないからセーフだよ。

思い当たりすぎる肖像画を思い出して頷く。

エバンさんが出所だったのか。

「・・・ああ。あれ」

「ご存じなのですか?」

エバンさんに頷き返すけど、あの肖像画についての経緯は詳しく知らない。

経緯を知っているお母様が口を開く。

「取引材料としてカレリーヌ様から渡されてな。配下の間諜がエクラーダ国内で手に入れたものだと聞かされたが」

「カレリーヌ様? カレリーヌ・リヒテルダート元公爵夫人でしょうか。なるほど。あのジュノー人の男はカレリーヌ様の配下でしたか」

エバンさんはカレリーヌ様の名前に、すぐに思い至ったみたい。

他国にまで知れ渡っているとは、恐るべきお婆ちゃんだな。

今度は聞き覚えの有る名前を耳にして、何の名前だったかを考える。

「人」と付いているのだから国名だろうけど、どこで聞いたんだっけ?

「・・・ジュノー人?」

「旧ジュノー王国の民だ」

「・・・あっ。カレリーヌ様の実家」

お母様が補足に付けてくれた「旧」国名で思い出した。

今は騎士団長さんの実家であるリヒテルダート公爵家の先々代当主夫人だけど、姉妹揃って輿入れする前は、30年近く昔に勇王の手で滅ぼされたジュノー王国の王女様だったと聞いた。

他国の王女様が一公爵家に嫁いだ理由は国力の差だってさ。

孫の騎士団長さんが大国リテルダニア王国の軍事部門トップで、姪の夫が王国内最強のウォーレス家先々代当主で前・軍事部門トップなんだから、吹けば飛ぶような小国の政略結婚としては成功なのかな?

「私の 祖母上(おばうえ) の実家でも有るな」

「曾お婆様よね?」

お父様も捕捉をくれる。「祖母上」っていうのは「お婆様」の尊称だよ。

ルナリアが言う通り、お父様のお婆様ということはルナリアの曾お婆様にあたる方となる。

たださあ、ルナリア。自分の曾お婆様でしょうが。

「・・・何で自信無さそうに言うかな」

「まずっ」

失言に気付いたルナリアが自分の口を両手で塞ぐ。