軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊姫 ㉛

「・・・後から来た人たちにも教えてあげるんだよ! みんなで頑張って豊かになるんだからね!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」

最高潮に達した難民たちが明るい笑顔で立ち上がる。

「ありがとうございます!」

「フィオレ様万歳!」

「姫様万歳! 精れ―――」

「バカ野郎! 黙れ!」

「配給が減るでしょうが!」

「ムググ―――ッ!?」

勢いに任せてNGワードを叫ぼうとした誰かを、周りの人たちが寄って集って抑え込んで口を塞いでいる様子があちこちに見える。

ヨシヨシ。小っ恥ずかしい異名は封殺できそうだね。

人の口に戸は立てられないし、宗教じみた煽動工作を封じ込めたとまでは言えないけど、下火になった口コミなんて、それ以上は広がらないものなんじゃないかな。広がらないよね? 広がらないと良いな?

どこかの世界の“名前を言ってはいけない魔法使い”みたいになりそうだけど、少なくとも私の耳に入らない限り私の心の平穏は保たれる。

「・・・さあ! みんな並んでご飯を受け取って! しばらく後続を待たなきゃいけないだろうから、しっかり噛んで、ゆっくり食べるんだよ! 体が弱っているときに急いで食べちゃ、却って体を壊すからね!」

「「「「「はいっ!!」」」」」

吹っ切れた心理を表すように元気な返事が返り、ぞろぞろと難民たちが炊き出しの列を作り始めたことを見届けて、私もホッと息を吐く。

誘導スタッフが付いているのでもないのに、難民たちが慣れた感じで待機列を形成しているところを見ると、ウォーレス領へ到着するまでの道中でも炊き出しを受けていたのだろうね。

通過経路や経由地の為政者が難民への炊き出しを行うのは、自領の盗難被害や治安悪化を避けるためだと聞いた。

飢餓や困窮は人の倫理観を失わせ、容易く犯罪を犯させる。

各地の為政者の支援が無ければ、ディディエさんたちの村が襲われたように難民が盗賊化する危険性が有ったはずだ。

こっちの世界では、炊き出しも決して人道的配慮や博愛精神から行われるものでは無い。

傲慢な博愛精神や慈愛を振り回して悦に浸れるほど、みんな余裕は無いし、そもそも侵略戦争が当たり前に罷り通る文明進度で純粋な博愛精神や慈愛なんて有るわけがない。

そんなものは余裕が有ってこそ生まれる自己陶酔のようなものだ。

そりゃあ、純粋な慈愛で多くを救おうとする特殊変異個体も居るかも知れないけど、その慈愛を振り撒くための原資は誰かの余剰を巻き上げてきたもので、振り撒く本人が自分で生み出したものじゃない。

大抵の博愛精神や慈愛の裏には何らかの思惑や犠牲が存在する。

安っぽい”お気持ち”でみんなが生き延びられるほど、世界というものは優しく出来てはいないんだよ。

それでも、各地で支援を受けられたお陰で、着の身着のままで脱出してきても何とかウォーレス領まで辿り着けたのは事実だろう。

どんな思惑であれ、そんな”人の善意”で救われた人が居ることを私も否定するものではないし、”善意”の裏にある思惑と戦うのは為政者側である私たちの仕事だ。

「・・・ふむ?」

炊き出し支援か。

私は気軽に出荷分のシカを炊き出しに回したけど、余裕の無い他領だと簡単に捻出できる負担じゃないよね?

有事に備えた食糧備蓄は、その土地の領民から徴収した租税で捻出したもののはずだ。

最終的に難民を受け入れたウォーレス領が難民を上手く活かして発展すれば、どこかのタイミングで炊き出しに掛かった費用の見返りを要求されるかも知れないな。

損得勘定で動くのが為政者というものだし、ロジックが成り立てば集るのも為政者というものだろう。

覚悟しておかなきゃいけないし、踏み倒すロジックも考えておかなきゃ。

恩義? 補償? 慈悲は無い。

リョウシュ=サン。滅ぶべし?

いやいや。そこまでは言わないけどね。

難民支援が損得勘定であるならば、放出した物資や投じた労力の回収もまた損得勘定だろう。

それはウォーレス領も同じなのだから、活かして見せたウォーレス領に正義がある。

道中の領地で受け入れられて生計が立てられそうなら、そこに留まる難民たちも居たはずだ。

目の前を行き過ぎるフリーの労働力を、みすみす逃した領主が悪い。

私の脳内で踏み倒し計画の立案構築が行われているところへ、内緒話が上達してきたルナリアが耳元へ口を寄せてきた。

「何とかなりそうね!」

「・・・うん。私たちもお昼を食べなきゃ」

「そうね!」

壇上から下りる私たちへと頭を下げる難民たちに手を振り返し、演壇の後ろで待つお婆様たちに受け入れられる。

「どう収めるのか心配していたのだけれど、上手く収めたわね」

「住宅建設事業への動員に目処が立って安心しました。よくやりましたね」

「・・・な、何とか」

私の頭を撫で回していたお婆様たちの目が私の隣へ向く。

「ルナリアも、よくフィオレを支えたわね」

「当然よ!」

ペッタンコの胸を張るルナリアを撫で回しながら、お婆様たちは3人組へと目を向ける。

「あなたたちも。フィオレが戻るまで上手く民心を纏めて繋いだわ」

「やり過ぎでは有りましたが、まあ、良いでしょう」

「「「はっ! お褒めに預かり光栄です!」」」

ハッ! そうだよ!

カルト教団的に難民たちを教化しようとしていた3人にお説教しようと思ってたのに、お婆様たちが労っているのでノーカウントにするしかなくなっちゃった!