作品タイトル不明
精霊姫 ④
「・・・後はお願いね!」
「お任せを!」
「お疲れさまでした!」
「お気を付けて!」
兵士さんたちに声を掛けると、あちこちから声が返ってくる。
「みんな、事故のないようにね!」
「承知しました!」
盛大な見送りにルナリアも応えて手を振り返している。
毎日のことなのに、みんな毎日こうやって帰還する私たちを送り出してくれる。
領民や領軍と領主一族の関係は良好だと実感できる瞬間で、私は結構、この遣り取りが好きだったりする。
ヨシ。今日も無事に日常業務が終わった。
直線道路の路肩で待機していた荷馬車の列を追い越して隊列の先頭に出る。
騎馬の馬列に続いて荷馬車の列も動き出す。
後は無事にレティアの町へ帰って、お母様たちに帰還報告をしたら、訓練をするなり勉強をするなりだ。
気絶した子たちも目が覚めれば体力が有り余って、じっとしていられなくなるだろうから訓練場が大盛況になるのだろうね。
そうして、昨日よりも自分が強くなった実感が湧けば、自発的にもっと血を飲んで強くなろうとするだろうし、ワナ猟の習得にも身が入るだろう。
成長する実感というものは、努力が報われた手応えが有って嬉しいものだからね。
崖上の森へ進出して行くためには、みんなが強くなる必要が有る。
ぜひとも領民強化計画の推進に協力していただきたい。
今日はまだ1匹も見ていない触角ヘビに警戒しながら直線道路を進む。
今は馬列の規模に対して実働できる戦闘要員が少ないので、いつも以上に周辺警戒を厳にする。
シュルシュルと魔力の手を直線道路の両脇に広がる森へと伸ばして、触角ヘビの探知に集中する。
アクティブソナーの探知範囲が2キロメートルを超える現状、樹上の探知を可能にする魔力の手も同程度まで伸ばせる。
1キロメートル未満の距離でも獲物の姿を明確に目視できない私の視力では、魔力の手の方が遠くまで状況把握が出来るんだよ。
ヌタウナギだってモグラだって目が退化しても状況把握が出来るのだから、ヤツらにできて私にできない道理は無い。
何たって、ヤツらは軟骨魚類や齧歯類だけど私は霊長類だからね。
私の中では食べられるお肉が少ない生物のヒエラルキーは低いのだ。
大きく広げた魔力の手を四方八方に伸ばして、見落としが無いように索敵を続ける。
馬鹿デッカい団扇で横向きに扇ぐ感じで魔力の手を振るんだよ。
前方は左右の探知範囲が重複するから3方向を重点的に団扇でパタパタやっていることになるね。
しばらく直線道路を進むと、団扇の先っぽに生き物の反応が引っ掛かった。
「・・・お?」
「どうしたの?」
「・・・ああ、いや。また慰霊碑の辺りに人がたくさん居るかも」
目一杯に伸ばした魔力の手の先っぽだから、距離は2キロメートルだね。
意識を集中して確かめてみるけど、数十どころじゃない数だ。
「また?」
ルナリアが怪訝な表情で首を傾げる。
分かる分かる。
思い起こされるのはエターナさんたちがレティアに到着した日の騒ぎだよね。
「・・・ナンナちゃん。何か見える?」
「前方ですか? んん~・・・、確かに何か居るかもです」
話を振ると、横に身を乗り出したナンナちゃんが目を細めて遙か前方を凝視する。
そうなれば、自分の出番かと鼻息を荒くしたアイシアちゃんが馬を進めてくる。
「斥候に出ます!」
「私も行ってきます。もしかするとエクラーダからの民かも知れません」
ああ、エクラーダ民か。それが有ったね。
斥候に出るのを定型パターン化するの? と、アイシアちゃんに訊く前に、それっぽい答えがエターナさんから出てしまったので、アイシアちゃんとエターナさんの二人で斥候に出て貰う。
私に常識的なお説教をしたエターナさんは脳筋色が薄いし、エクラーダ民が相手なら適任―――、あれ?
エターナさんって脳筋色が薄かったっけ?
アリアナさんと似た感じなのに脳筋じゃないわけが・・・。
まあ良っか。何か、こう、上手い具合に収めてくれるだろう。
「・・・お願い」
「気を付けて行くのよ!」
「「はい!」」
元気な返事を残して二人の馬が駆けていく。