作品タイトル不明
精霊姫 ③
「レティアへ帰還する! 撤収準備に掛かれ!」
「「「「「撤収準備―――ッ!!」」」」」
何だ何だ、と、遠巻きにしていた新人さんたちが、ネイアさんの撤収命令にお尻を蹴っ飛ばされたように復唱を返して駆け出す。
「馬を荷馬車に繋げ!」
「荷馬車の準備が出来たら点呼!」
「意識がない者も見落とすな!」
「守備部隊への武器の返却も忘れないで!」
「「「「「はっ!」」」」」
ピーシーズが飛ばす指示に、あちこちから返事が返ってくる。
気絶せずに回収作業を乗り切った子が20人に目を覚ました4人を足して、撤収作業を進めているのは24人だ。
馬柵に取り付いて繋いであった荷馬を牽き出そうとするグループと、荷馬車の荷台に上って寝ているメンバーを数えに掛かるグループと、崖上の森へ持ち出した槍を集めて回るグループに、大きく分かれているみたいだね。
「・・・ふむ?」
移動準備の指示を受けた新人さんたちの動き―――、いや。意志に変化が見えるね。
今朝のワナ作り教室直後は班ごとの対抗意識で「負けてたまるか」とテキパキとやっている様子が有ったけど、今は班分けに関係なく相互に協力しようとする意志が見える。
同じテキパキやるのでも、命令遂行という目的達成のために「班分けなんて細けえことを気にしてられっか」と意識が変わった感じだろうか。
脳筋思考回路が良い方向へ転がっているようで、良いことだ。
ピーシーズの支持に従って駆け回っている新人さんたちの姿をルナリアと二人で眺めていると、私たちの背後へ回り込んだレヴィアさんとマーシュさんに背中を押される。
「さ。私たちも撤収準備に取り掛かりましょう」
「・・・そうだね。行こっか」
「うん!」
多くの人たちが忙しなく駆け回っているので、エターナさんとミセラさんが前に立ち、レヴィアさんとマーシュさんが側面を固めて、ディディエさんとダーナさんが私たちの後ろでササッと壁を作る。
こういう護衛フォーメーションだと、ルナリアと私の身長では井戸の底から空を見上げる感じになって、周りの様子が見えなくなるんだよ。
ディディエさんたちも慣れてきたねえ。
私の知らないところでミセラさんたちに色々と仕込まれているのだろう。
馬車馬と一緒に牽き出されてきた私たちの馬は、ミセラさんたちが手綱を受け取ってくれた。
一番時間が掛かるのは荷馬車に馬を繋ぐ作業だけど、 轡(くつわ) を付けたままなので待ち時間は思ったよりも早かった。
撤収準備命令が下って15分間ぐらいかな。
自分の馬の首に腕を伸ばして撫で回しているうちに報告が来た。
「点呼、終わりました! 全員揃っています!」
「馬車に搭乗! 採掘場の敷地内で方向転換を行い隊列を形成せよ!」
「「「「「はっ!」」」」」
気絶せずに訓練を乗り越えた新人さんたちが空荷の荷馬車2台に乗り込み、御者台にも一人ずつ座る。
その様子を眺めていて、私の計算違いに気付く。
そう言えば、荷馬車の御者も新人さんたちが務めていたね。
だったら荷台に乗る人数の総数は70人だったわけだ。
気絶していない人数は24人だから2台の荷馬車に12人ずつ乗るものだと考えていたけど、御者台に乗る10人を差し引けば各馬車の荷台に6人ずつだね。
気絶してる子たちを、あそこまでミッチリと詰め込む必要は無かったな。
帰り道に触角ヘビが獲れることもあるし、まあ良っか。
ギチギチに詰まっているよりも、スペースに余裕が有る方が戦闘要員は有事に動きやすいだろうし。
私が自分の計算間違いを気付かなかったことにしている間にも、ポクポクガラガラと蹄と車輪の音を響かせる荷馬車が採掘場の場内に進入してきては、ぐるりと展開して直線道路へ出て行く。
「・・・私たちも、そろそろ行こう」
「うん!」
鞍によじ登るルナリアのお尻を押し上げて、私も鞍によじ登る。
見回せば、ピーシーズとミセラさんたちとエターナさんとディディエさんたちも騎乗し終わっている。
「・・・良いよ。行って」
私からゴーサインが出るのを良い子で待ってたルナリアが頷き返してくる。
鉄道オタクが喜びそうな「出発進行!」的モーションでビシッと場外を指して、ルナリア車掌が側近一同に号令を出す。
「みんな、行くわよ!」
「「「「「はっ!」」」」」
みんなの返事を受け止めながら、ルナリアと同時に馬の腹を踵で軽く蹴る。
ポックポックと蹄の音を響かせて進むと、見送りのために作業の手を止めた工兵部隊の人たちだけでなく、採掘場の作業員たちや守備部隊の兵士さんたちも手を振っている。