作品タイトル不明
精霊姫 ⑤
時速5キロメートルの常足で距離2キロメートルだと、20分ぐらいで慰霊碑に着くかな。
それまでには状況を把握して帰ってくるだろう。
ポックポックとしばらく進んでいると、予想通りアイシアちゃんが帰ってきた。
というか、アイシアちゃん一人が帰ってきた。
なるほど。エターナさんがビンゴだったか。
チラリと馬上のルナリアを見ると、ルナリアもエターナさんの予測が正解だったことを悟ったようで、慌てる様子もなく落ち着いてアイシアちゃんを待っている。
駆足で疾走してきてアイシアちゃんは私たちの手前で手綱を引く。
「報告!! 集結しているのはエクラーダ王国からの難民です!! その数、数百!! エターナさんは状況把握のため現場に残りました!!」
行軍訓練中でもある馬列は足を止めないから、アイシアちゃんは馬首を巡らせながら、私たちの馬に並び掛けるタイミングで馬上で声を上げる。
部隊の大将はルナリアだけど、ピーシーズは私の直属だから報告を受け取るのは私だ。
一緒に聞いては居ても、指揮系統的に大将のルナリアは私から報告を受け取ることになるから、この場合、どっしりと構えていたルナリアは私に向けて頷いて了承を返してくる。
面倒な遣り取りだけど、指揮系統に沿うと、こうなるんだよ。
今までだとユルユルで済ませていたけど、ピーシーズも部隊長としての訓練中で、新人さんたちの目が有るから指揮系統通りの手続きを取っている。
「・・・ありがと。お疲れさま」
「はっ!!」
ルナリアが鷹揚に頷いたのを確かめた私が任務報告を労うと、やり遂げた感でニッコニコのアイシアちゃんが、馬の足を緩めて馬列の元のポジションへ戻っていく。
定型形式を終えたルナリアが、目線で労ったアイシアちゃんから私に目を向け直してくる。
「どうするの?」
「・・・どうもしないよ。このまま進む」
私の返事にルナリアが難しい顔になる。思い出したのは西部地域からの難民かな?
ノーアがレティアの町に着いた日のアレだ。
あの日、不安と疲れと怖れに囚われていた難民たちは、テレサの姿を見つけて暴徒化する寸前だった。
”辺境”の住民の前で”辺境が怖い”とか失礼極まりなかった難民も、今ではすっかり馴染んで”辺境民”になってると聞いてるけどね。
あのときは“蒼焔”で驚かせて強引に鎮静化させたわけだけど、難民たちが縋りつく対象がテレサから私に変わるだけで、あの日と状況は同じなのだ。
ルナリアが不安を覚えるのは当然のことだよね。
「大丈夫なの?」
「・・・大丈夫だよ。そのためにエターナさんが残ったんだし」
立場は逆でも、きっと、エターナさんもルナリアと同じ不安を抱いたのだろう。
エウリさんとエングさんが出迎えに行ったのだから、事前情報は難民たちの耳に届いているだろうとは思う。
でも、難民の心情というものはエターナさんたち3人を怒鳴りつけて説得したときと同じで、自分たちのお姫様が、お姫様で有ることを否定する状況を受け入れることに拒絶感を覚えるものなのだろう。
その心情は私だって分からなくも無いよ。
分からなくは無くても、状況を現実として受け入れて貰うしかない。
レティアの側から見れば、国内からの難民と他国からの難民では危険度が桁違いなんだから。
エクラーダ王国の記憶を一切持たない私は、エクラーダ人の体を持っては居ても、エクラーダ人に心が寄り添うことは無い。
レティアの人間として異邦人の襲来に対峙することになるんだよ。
私だってレティア歴3ヶ月ちょっとのニワカなんだけど、身も心もレティアの人間になってしまっている私の立ち位置は明確だ。
押し寄せたエクラーダ民が異邦人として振る舞うなら、脅威として扱うしか無い。
それを理解してくれたからこそ、エウリさんとエングさんも、エターナさんも、私とエクラーダ民が邂逅する前に説得しに行ってくれている。
だから私は、エターナさんを信じる。
エウリさんとエングさんを信じる。
エクラーダ民も理解してくれると信じる。
フレーリアのためにも、どうか理解して欲しい。
「・・・大丈夫。きっと大丈夫だよ」
「フィオレ・・・」
様子の違うルナリアの声に目を向けると、何やら痛ましそうな表情で私を見ている。
「・・・ん? どうしたの?」
「だって、辛そうな顔をしてるから」
「・・・えっ? 私が?」
どういうこと?
右手は手綱を握っているから空いている左手でペタペタと自分の顔に触れてみる。
自分の表情なんて、ちょっとよく分かんないな。
幼女肌はプニプニプルプルだし、ほっぺを摘まめばモチモチでお餅みたいによく伸びる。