作品タイトル不明
精霊姫 ①
「・・・後はよろしくねー!」
「了解しましたー!」
崖上に居る兵士さんたちに手を振ると兵士さんたちも手を振り返してきた。
ルナリアも手を振っているけど、もう良いだろう。
「・・・行くよ」
「うん!」
肩越しに声を掛けるとルナリアがギュッと抱き付いてくる。
あ。そうだ。
女は度胸! 行くぞ!!
「えっ・・・!?」
突然、フッと重力が消えて、ルナリアと私の髪が宙に泳ぐ。
「足」を縮める速度を自由落下の速度に合わせて背中向きに降下を始める。
猛烈な勢いで景色が下から上へ飛んでいく。
玉は無いけど体内で内臓が持ち上がる玉ヒュンを味わいながら真下に落下する。
「ぎゃあああああああああああああああああっ!!」
「・・・ヒャッハ――――――――――――ッ!!」
尾を引くルナリアと私の叫び声が階段を下りる新人さんたちを瞬時に追い越していく。
まだまだじゃのう、ルナリア!
自分の魔力の手を地上に突くなり、崖上に魔力の手を引っ掛けてブラ下がるなり、墜落を防ぐ方法は有るのに、ルナリアは絶叫しているだけで阻止行動を取るのを忘れている。
完全な自由落下だと密度の関係で逆立ち状態で落下することになるらしいけど、逆立ちすると飲んだ血が胃から逆流してきそうだから体勢は仰向けのままに制御しておく。
高さ20メートルからの自由落下だと、地上に激突するまでの時間はほんの2秒間ほど。
距離が短いから落下速度は時速70キロメートル程度までしか上がらない。
時速70キロメートルなんて長くて急な下り坂なら加速度が加わって自転車でも出せる速度だよ。たぶん。
競輪選手が自転車を漕いでも、そのぐらいの速度は出せたはず。
鳩尾の下あたりまでゾクゾクする玉ヒュンだって、最初だけで継続的に感じるわけじゃないからね。
もちろん、墜落するのは私だって怖い。
私も自殺願望が有ってこんなことをしているわけじゃないし、高度10メートルを切った辺りで急減速を掛けている。
運動エネルギーに引っ張られて、今度は背中側へ押し付けられて首を後ろに持って行かれるような 重力加速度(G) を感じる。
落下エネルギーが制動力と相殺されてゼロになったのは、地上1メートルほどの高さだった。
仰向けに寝ている体勢から体を起こして、ちゃんと足の裏でトンと着地する。
思った通りに生還できて、心の中で胸を撫で下ろす。
「・・・着いたよ?」
「・・・・・・・・」
おや? 反応がない。
ただの屍のよう―――、いやいや。生きてるからね?
血相を変えて階段を駆け下りてきたピーシーズやミセラさんたちとエターナさんが、私たちの傍へと駆け寄って来ている。
そりゃまあ、驚いただろうね。
肩越しにルナリアを返り見る。
「・・・ルナリア?」
私の首に抱き付き続けているルナリアの腕がフルフルと細かく震えているところを見ると、思惑通り、転落することを怖がってくれたかな?
真下を向いて地面が急接近してくるのを見てしまうと、高所を怖れすぎる感覚が戻ってくるかもだから、これでも、空しか見えないように配慮したんだよ?
私がルナリアに怖がって欲しいのは、高い場所じゃなく転落することだからね。
不意にルナリアの両腕が緩んで水平に開かれる。
んん?
「ふんっ!!」
「・・・あいひゃっ!」
柏手(かしわで) を打つようにビタンッと両手のひらで両頬を挟まれて、私の顔がグニッと縦に潰れる。
「フィオレのアホ―――ッ!! 何てことすんのよ―――ッ!!」
「・・・ひててててて!! いひゃい!! いひゃい!! いひゃい!」
マジギレの怒声と共に、グリグリグリッ! ビタンッ! ビタンッ! ビタンッ! と、両側からの掌底に両頬を挟まれる。
ちょっ! 身体強化魔法も入ってない!?
シンバルを持ったお猿さんの玩具みたいだけど、あのお猿さんは、もうちょっとソフトにシンバルを打ち合わせるからね!?
ここで、みんなが地上へ到着する。
「フィオレ様―――ッ!!」
「ルナリア様―――ッ!!」
「ご無事ですか―――ッ!?」
「大丈夫、大丈あいひゃっ!」
心配顔のみんなにヒラヒラと手を振って答えていたら、もう一発、ビタンッと食らった。
どうやら無事そうだと、みんな安心した様子だけど、ルナリアと私がケンカをすることなんて今まで一度も無かったことだから、一様に困惑した表情をしている。