作品タイトル不明
第二次ブートキャンプ ㊷
前脚と後ろ脚を縛った獲物を槍に吊して6人掛かりで担いで採掘場まで戻るんだよね。
馬用リフトが稼働すれば回収作業も楽になるから、もう暫くは人力で頑張って貰おう。
新人さんたちの中には身体強化魔法の練習中の子も混じっているから、仲間を背負って歩くのが辛い子も居る。
年齢的にも小学校高学年から中学生の年齢の子たちだからね。
ギブアップした子と手が空いている子が交代して、全員が頑張っている。
辛いだろうに、それでも仲間を背負って歩くことに弱音や不平を吐く子は一人も居ないのは、さすが騎士を目指す子たちだよね。
見どころが有ると私の中で新人さんたちの評価を引き上げる。
これだけの根性が有るなら森の奥へ連れ込まれても生き延―――、エホン。耐え忍―――、ゲフンゲフン。一回り大きく成長してくれることだろう。
たぶん。イケる。イケる。ヘーキ。ヘーキ。
「戻るわよ!」
「「「「「はいっ」」」」」
ルナリアの号令に新人さんたちが応える。
何の問題もなくワナに掛かった最後のシカにもトドメを刺し終えて、ククリも仕掛け直したから今日の回収作業は終了だ。
もはや定型ムーブとなりつつ有る「どっち? あっち」の遣り取りを経て、ツッタカターとルナリアが先頭に立つ。
仲間を背負った新人さんたちが続いて、さらにその後ろにシカを担いだ猟師さんたちがエッホエッホと続く。
おっと。進路上の地形に凸凹があるな。
「・・・段差があるよ! 足元に注意して!」
「「「「「う~い」」」」」
私の注意喚起に、隊列の後方から重荷を担ぐ猟師さんたちの返事が返ってくる。
これ、何で猟師さんたちだけが獲物の運搬作業に従事しているのかと言えば、ワナに掛かった魔獣の討伐に領軍が参加した場合も、回収した獲物は猟師さんたちの成果としてカウントされる 外部委託(アウトソーシング) になってるんだよ。
魔獣の間引きと血を飲んで強化するのが目的の領軍は雑務を丸投げできて、猟師さんたちは危険が減って労働の対価を得られる共棲関係を構築している。
領軍は領主であるウォーレス家の所有だから、領軍が魔獣討伐で儲ける必要は無い。
領民である猟師さんたちが潤えば税金で最終的に領主が儲かるし、魔獣素材の流通でも最終的に領主が儲かる。
領軍は騎士や兵士の訓練だけに集中できて負担が減る。
利益を独り占めせずに領民への分配をスッと受け入れる、ウォーレス家の懐の深さを象徴するシステムなんだよね。
見ようによっては小作農みたいなシステムだけど、実験農場や新領民の生活基盤構築支援にも導入しようと私は考えている。
小作農システムだって、限界まで領民から搾り取ろうとするから小作人が自立できずに貧困が無くならないのであって、領民が豊かに暮らせなければ人口が増えないし労働力不足も解決できない。
ウォーレス家の人たちが先見性と理解のある人たちで本当に良かったと、心の底から思うよ。
採掘場の門前に戻れば、見張り任務に就いている兵士さんたちが門扉を吊り上げて開門してくれたところだった。
「帰還したわよ!」
「お帰りなさい! こりゃあ、大変だったみたいですね!」
門を潜りながら槍を掲げるルナリアの帰還宣言に答えた兵士さんたちが、半数を背負って戻って来た新人さんたちの有り様を微笑ましげに見ている。
「・・・ただの魔力酔いだから、ヘーキ、ヘーキ」
すでに魔力酔いなんて見慣れてしまっている兵士さんたちの間から、ワハハハと明るい笑い声が上がる。
兵士さんたちも魔力酔いは酒酔いと同レベルの認識なんだな。
むしろ内臓への負担から言えば酒酔いの方が危険かも。
私がひっくり返っているときの反応もこんな感じなのだろうと納得してしまう。
崖上の森に出ていた全員が採掘場内へ帰還したことを確認して門扉が落とされる。
ズン! と、重たい地響きを立てて門が閉まった瞬間、緊張が解けた新人さんたちが背中に負ぶった仲間を地面に下ろして座り込む。
一先ずの急速育成計画は、無事に終わったね。
まあ、「終わった」と言っても、こんなのは第1弾であって、まだまだ続くんだけど。
先行しているピーシーズが3ヶ月以上掛けて駆け抜けてきた道を、さらに短い期間で追い付かせようって言うんだから、こんなもので終わるわけがない。
だって、ピーシーズはもう初陣を済ませてるからね。
採掘場でカリーク王国軍を迎え撃ったときのアレは、“蒼焔”を2~3発落としただけで、敵影も見えていなかったからノーカウントかも知れないけど、ピーシーズは王都での襲撃事件も経験している。
事実上の初陣は王都だとして、さらにはレティアへの帰り道で盗賊討伐作戦にも参加しているから、2歩も3歩も先を行ってるんだよ。
王都に駐留すれば王様たちの目に触れることも有るだろうし、恥ずかしい思いはさせられない。
さすがはピーシス騎士だと一目置かれる”箔付け”をしてから送り出してあげる。
逃がさないからね?