作品タイトル不明
第二次ブートキャンプ ㊴
繰り返し訓練することで、訓練したことが日常になり、訓練内容が身に付くことで 予想外の事態(イレギュラー) にも対応できるようになる。
うん? ギリギリのボーダーラインの見極めが出来るようになるのかな。
戦争という極限状態に放り込まれても、筋肉に刷り込まれた記憶で作戦行動を継続できるようになるのか。
意外と賢いな。筋肉。
その過程で、ある程度は恐怖心も克服される。
緊張感も日常の一部になる。
訓練とは、そういうものだ。
状況シナリオに合わせて策定される作戦や行動計画に沿った、一連の実働訓練を”演習”という。
演習で見つけた 問題点(バグ) を修正し、”目的”を達成するための作戦案や行動計画案にフィードバックする。
実働部隊は修正された作戦や行動計画に則って訓練を繰り返し、成功率と生存率を向上させる。
そのために各国の軍隊は、膨大な 費用と時間と人的資源(リソース) を投資して立案と演習と訓練を繰り返す。
軍隊とは、そういうものだ。
そうまでしなければ、国土や国民を守れないものなのだ。
それを疎かにしたり、情報収集に敗れたり、判断を誤ったりした者から時代の波間に消えていく。
だから、私たちは先人の知恵と経験に学び、実践することで自分自身を鍛え続けなければならない。
思えば、それって日本で育った頃の私が日常的にしていたことなんだよね。
食べ物が欲しくて、図書館の本だけでは情報が足りずに図書館や町役場の無料パソコンでネット上の情報を漁り、ネット掲示板で経験者からコツを教わったりしたものを、山や川で試して問題点を洗い出しては修正して、自分の力で獲物を獲れるようになった。
私はそうやって生き延びてきたし、これからも生き延びてみせる。
妥協はしない。
この手の中に得た大切なものを私は絶対に諦めない。
みんなにも私が持っているものを伝えて、みんなと一緒に生き残る。
「先行しやすぜ」
「・・・お願い」
一声掛けた猟師さんたちが私たちを追い抜いていく。
基本は1頭目の回収作業と同じだ。
ブッ掛けの後に新人さんたちがしっかりと獲物の体力を削ってくれれば、誰かが囮役をする必要も無くなるのだから、1頭目の討伐で得た失敗要因の知見を活かして頑張って欲しいものだ。
しばらく進むと私の目にもバンダースナッチの姿がハッキリと見えてきた。
2頭目の姿が鮮明になるにつれ、隊列の空気にピリピリと肌を刺激するような緊張感が高まってくる。
ワナの発動で重石が地上に落ちていて、前脚を高く吊り上げられたバンダースナッチが、支点に使った頭上の木の枝に向かって2本足で立ち上がり、チンチンする格好になっている。
個体の体格は、さっきの個体よりも一回り小さいかな。
先行した猟師さんたちは、獲物を刺激しない距離で水鉄砲の準備をしているようだ。
「どう思う?」
「・・・今度は前脚を括れてるから、反撃自体はさっきよりも安全かな」
「そうなの?」
ルナリアに意見を求められて見立てを返せば、獲物に向けていた目を私へ移してくる。
この獲物は前脚を重石に引っ張り上げられて背中を向けてるからね。
「・・・ただ、重石の方のロープを噛み切られたらワナが外れちゃうから、先に投げ輪を掛けた方が良いね」
「分かったわ!」
私の見解を確認したルナリアが頷く。
投げ輪を使わない討伐手法については、もう少し検討を重ねて研究する必要が有るから、また今度で良い。
ワナに掛かった獲物は、ワナから「離れようと」する。
「逃れようと」するのと「離れようと」するのは同じようで違う。
特に、今回のように前脚を括っている場合、重石を吊り上げていたロープが地面に落ちているから、重石側のロープが獲物の目の前に有ることになる。
獲物の意識が自分の足を吊り上げているククリに向いていれば、高い位置に有るククリに噛み付いて攻撃しようにも顎が届かないけど、重石側のロープには顎が届くんだよ。
獲物がワナから「離れようと」しているうちは重石側のロープに攻撃は向けられないけど、回収作業で更なる攻撃を受けて「逃れようと」し始めた獲物の攻撃性が周囲の全てに向けられれば、当然、重石側のロープも攻撃を受ける。
そうなれば、顎に火魔法の発現器官を持つバンダースナッチだ。
重石側のロープなんて簡単に焼き切られるだろうね。
ロープを切られるということは、ワナが外れて魔獣が「自由になる」と言うことだ。
だから、投げ輪で獲物の顎が重石側のロープに届かないようにしてしまう。
魔獣を食肉化できた最大の要因は獲物の「自由を奪う」点にある。
水鉄砲だとか投げ輪だとかワナ以外の部分は、より安全に狩りを行うためのオマケに過ぎない。
ワナで「自由を奪う」という最重要の部分さえ維持できれば、少人数でも時間を掛けて獲物を倒すことは可能なんだよ。
私一人でデッカいイノシシを50回以上突いてトドメを刺しきったようにね。
「投げ輪を用意するのよ!」
「いつでも行けますぜ!」
ルナリアの指示に答えてロープの束を手にした猟師さんたちが前に出て来て、即座に応えた猟師さんたちにルナリアがサムズアップで返している。