作品タイトル不明
第二次ブートキャンプ ㉟
今、このバンダースナッチは私が全身から放った魔力に反応した。
しかも、かなりの素早さで。
魔獣は脅威度の大小を魔力の大きさで判断しているのかも。
実験を継続しないと確信は持てないけど、バンダースナッチがシカと同じ反応を見せた以上、“魔獣”という種の生態に関わる部分と見ていいんじゃないかな。
「・・・これって何かに使えそう?」
待て待て。傾ぎそうになる首を意志の力で堪える。
またお母様たちへの相談案件が出来たけど、今は目の前の対処に集中しなきゃ。
攻撃しようと一直線に向かってくるボス犬は魔力の手で掴み取れたけど、こうやって避けようと? あるいは反撃しようと身構えている状態で、ボス犬と同じように掴み取れるのかといえば怪しいかな。
ククリに脚を取られている以上、動ける範囲は限定できているから危険は大きくないけどね。
前脚が届く範囲に踏み込まなければ問題ない。
まあ、踏み込むんだけど。
魔力の手を4つ、目の前に重ねて備える。
ギュッと魔力を固めて防御術式を発動する。
ジリジリと摺り足で踏み込めば―――。
「―――ッ!!」
その距離30センチメートル。
瞬きよりも速く振り下ろされた犬パンチが私の目の前で止まっていた。
ちっぽけな私の体なんて真っ二つに出来るだろう鋭い鉤爪が、魔力の手による防御術式の1枚目を貫通して2枚目を切り裂けずにプルプルと震えている。
おおっ。すんごい迫力・・・!!
周囲の人たちが息を呑む気配が伝わってくる。
剣術を主体に戦っている騎士様たちは、防御術式でこんな迫力にいつも晒されているんだね。
大丈夫だと信じてはいたけど、私の背筋にヒヤリと冷たい汗が滲み出す。
それでも後退りそうになる足を叱咤してグッと踏み留まる。
ヨシ! 防げる!
ついでだから振り下ろされた前脚を魔力の手で固めちゃえ。
犬系って意外に表情豊かだよね。
前脚の自由を奪われたバンダースナッチの驚きと焦りが伝わってくる。
「「「「「フィオレ様!?」」」」」
「・・・私は大丈夫だから攻撃して!」
こっちも焦りを隠せないピーシーズとエターナさんの声に、覆い被さってくるようなバンダースナッチを睨み上げながら叫び返す。
ディフェンス担当が均衡状態を生み出したのなら、オフェンス担当は心配よりも攻撃に集中するべきだ。
私はチームプレーとは縁遠い生き方をしてきたけど、論理的に考えてチームプレーの連携とは、そう有るべきだろうということぐらいは分かる。
だから早く 殺(や) っちゃってよ。
空中に固定した鉤爪を、まじまじと見上げる。
自分の防御術式がどこまで通じるか試したなんて言えば、きっと獲物を仕留めた後で叱られるのだろうけど、私の中に今後のためのモノサシが出来た。
私の魔力の手は魔獣の攻撃に耐え得ると証明できただけでも実験の価値は有った。
「 殺(や) るわよ!」
「「「「「は、はい!!」」」」」
さすがルナリア。
誰よりも早く再起動して行動に移す。
「ギャウッ!?」
サッと踏み込んだルナリアの槍の穂先がバンダースナッチの脇腹に深く突き刺さり、ピーシーズやミセラさんたちも続く。
新人さんたちの表面を傷付けるだけの刺突と違って、ゴリゴリと獲物の命を削り取っていく本物の刺突だ。
おっと。させないよ。
横合いからの攻撃を無視できなくなったバンダースナッチが体の向きを変えようとするけど、もう遅い。
前脚を捕まえている以上、動けないでしょ。
私から注意を逸らしたバンダースナッチの横っ面をベシッと魔力の手で引っ叩く。
「ギャンッ!!」
「・・・よそ見しない」
私へ注意を引き付けては、みんなが側面から突き、バンダースナッチが側面へ意識を逸らせば張り倒して意識を私に向け直す。
水鉄砲を槍に持ち替えた猟師さんたちも続くけど、後ろ脚を括られて前脚を魔力の手で固められたバンダースナッチは、バル何とかシャークさんのポーズになっていて反撃できない。
四つ足動物の悲哀で後ろ脚1本では攻撃行動が取れないからね。
着々とダメージを積み上げられて、苦しげに身を捩るバンダースナッチの抵抗が億劫そうに弱まっていく。