作品タイトル不明
第二次ブートキャンプ ㉞
ルナリアが賢くて優れているのは、こういうところだよ。
自分よりも知識や経験を持つ相手の警告を、素直に受け入れられる度量を持っている。
どうするかな。
もう一度、ブッ掛けで動きを止めるのが正道だろうけど、回収すべきバンダースナッチは、もう1頭掛かってるしなあ。
良い機会だから、いくつか試しておくか。
「どうすればいいの?」
「・・・私が正面で獲物の注意を引くよ。ルナリアは横から攻撃を入れて」
私もちょっと試してみたいことがあるから囮役を申し出る。
確か、チームプレーのゲームとかで、そんな戦術が有ったよね? 盾役(タンク) ?
防御力に優れるメンバーが 敵視(ヘイト) を稼いで、他のチームメンバーが敵に攻撃できる隙を作るんだっけ。
ネット掲示板のスレッドで覚えた知識だけで、やったこと無いけど、理屈は理解できているはずだから何とかなるだろう。
心配が表面に出てしまっているルナリアが眉根を寄せる。
「それって大丈夫なの?」
「・・・いざとなったら魔力の手で押さえ込むから、ヘーキ、ヘーキ」
「分かったわ!」
心配させないように軽く返せば、覚悟を決めた表情でルナリアが頷く。
いつもと違う手段を提示したことで私が何かを考えていることには気付いているだろうに、それでもルナリアは受け入れてくれた。
私が危なくなる前に致命傷を負わせれば、と考えたかな?
ほんの数メートル程度の距離は、ルナリアの突進力なら無いに等しい距離だからね。
ルナリアの判断は戦術的に正解だと思うし、私と猟師さんの意図を正しく汲み取ってくれたと言える。
私が攻撃を防ぎきって無傷で終われば、世は全てこともなし。
これで作戦決定かと思えばエターナさんが手を挙げた。
「フィオレ様。囮役なら私が」
「・・・ありがと。でも、今回は私がするよ」
「ですが―――」
護衛の職務を果たそうとするエターナさんが食い下がるのを手で制して、ミセラさんが私に視線を向ける。
「何か思惑が?」
「・・・試しておきたいことが有ってね」
首を傾げて問うミセラさんには、隠すことなく本音を告げる。
ほんの数瞬、真っ直ぐに目を合わせて見つめ合うと、ミセラさんはエターナさんに目を向けた。
「エターナさん。ここはフィオレ様にお任せしましょう」
「ええっ?」
「良いから。良いから」
戸惑いを顕わにするエターナさんの背中を押して、ミセラさんが包囲の輪に加わりに行く。
こうやって私を信じて任せてくれるミセラさんにも頭が下がるよ。
無謀だとは思っていないけど、危険な実験であることには違いないからね。
私は私で、ルナリアやミセラさんの信頼に応えようじゃないか。
「・・・みんなも、ルナリアに続いて一撃ずつ入れちゃって」
「「「「「はい!」」」」」
「「「「「おう!」」」」」
みんなを見回しながら方針を伝えると、揃って返事を返してきた。
さて、やるか。
両手でペチンと自分の頬を張って私も気を引き締め直す。
新人さんたちが後退して、代わりにピーシーズとミセラさんたちと猟師さんたちが前へ出る。
私はみんなよりもさらに前へ出て、 蹲(うずくま) っているバンダースナッチの正面に立つ。
「・・・こっちだよ」
「―――ッ!!」
指向性を持たせていない魔力を体内から強く押し出してドバッと発散すれば、飛び上がるようにしてバッと身を起こしたバンダースナッチが、私に向かって低く身構えた。
まともに目が見えていない状態のはずなのに、私の位置を真正面に捉えている。
やっぱりか。
魔力を感じ取ったときのシカと全く同じ反応だ。
危険を目の当たりにした新人さんたちの間から響めきが上がって、ピーシーズやミセラさんたちが敵意を膨らませる。
それでもバンダースナッチはピーシーズやミセラさんたちには反応せず、私を強く警戒しつつタマネギ汁やお酢が目鼻に染みるのを首を大きく振って振り払う。
「・・・ほら。まだぜんぜん動けるじゃん」
「グルルルルル・・・!!」
暴力的な野生を剥き出しにするバンダースナッチの目は私だけに向いている。
逆襲の機会を狙っていたんだろうけど、騙されなかったよ?