作品タイトル不明
第二次ブートキャンプ ㉝
出荷作業で生きた動物を殺傷する行為に慣れたのか、獲物に一突き入れた少年少女が予想した以上の滑らかさで交代し、獲物にダメージを少しずつ蓄積させていく。
獲物に攻撃を入れ終わって包囲の輪に後退する少年少女たちの表情には、「強い魔獣に一撃入れてやったぜ!」的な達成感が表れていて、どの顔も興奮気味だ。
交代した少年少女が槍を繰り出す度に、バンダースナッチの喉元や腹の白い毛が出血で濡れて赤く染まっていく。
「・・・うーん」
ただ、これってお見合い状態なんじゃないかと思うんだよね。
致命的な一撃が入ったように、私の目には映らない。
37人もチクチクと突っつくわけだから、みんなが控え目に攻撃しているは仕方ないとは思うんだけど、動けない獲物を一方的に攻撃することが悪い意味での「作業」になってない?
その辺りに一抹の不安を感じてしまう。
「・・・・・」
「・・・・・」
視線を感じて目を向ければ、微妙そうな表情の猟師さんと目が合った。
だよねえ・・・。
無言で猟師さんに頷き返す。
これは想定外だった。
安全マージンを引き下げた分を火力で補う想定が、獲物にダメージが入っていない。
慢心や手抜きとまでは言わないけど、新人さんたちは獲物が動けないと思い込んでいて、危機感に欠けるんじゃないだろうか。
強力な魔獣に対する恐怖心がないのかと言えば、そうでは無いのだろうけど、本当の意味で恐怖心が有るなら、肩に力が入りすぎて獲物に深手を与える人が出てきても不思議は無い。
むしろ、そうなるだろうと私も猟師さんも読んでいたのだ。
なのに、みんながみんな、獲物に表面的な傷を与えるだけで、次の順番の人に攻撃の機会を回すことを優先しているように見える。
「・・・読み違えたなあ」
しっかりと獲物の体力を削れているのなら順番を気にする余裕を持つのも良いけど、「手負いの猛獣」なんて比喩表現が有るぐらい、獲物を傷付けるだけで体力を削れていないのは非常に危険なことなんだよ。
これって、人数が多いのも危機感を薄めさせる一因になっているのかも。
バンダースナッチが掛かっているワナはもう1ヶ所あるのだから、2グループに分けて人数を少なくした方が良かったかなあ。
私には、見た目の出血の派手さほど獲物が弱っていないように見えるのが、どうしても気になるんだよ。
一応、警戒しておくか。
突かれる度にキャンキャンと悲鳴を上げているバンダースナッチの周囲を、伸ばした魔力の手で取り囲んでおく。
「・・・ふむ?」
私の頭が傾ぐ。
でも、バンダースナッチが敵の裏をかくような行動を取ることが有るのは、ボス犬が示したよね。
もしも予想外の手段で反撃に出て来たときに、魔力の手だけで間に合う?
魔獣が魔力の動きを察知することは、採掘場のシカがアクティブソナーに反応したことで示されている。
魔力の手は魔力そのものなのだから、バンダースナッチも魔力の手を察知して反応する可能性を考えておいた方が良いか。
魔力に反応・・・。
んー? 思考に没頭しそうになっている私を現実に引き戻したのはルナリアの声だ。
「わたしたちも行くわよ!」
「・・・ああ。うん」
元気に自分の槍を掲げるルナリアに答えて、ミセラさんたちを引き連れた私も前に出る。
少年少女たちの順番が終われば残るはピーシーズと猟師さんたちの一部と私たちだけだ。
安全性だけで判断するなら、魔力の手でバンダースナッチを押さえ込んでから突いた方が良いんだけど、どうするかな。
それでは私たちも訓練にならないんだよね。
負傷の状態から敵の余力を見極めるのも学ぶべきものの一つだし、極力、接待プレイは避けておきたい。
「・・・ルナリア。見た目ほど弱っていないから接近しすぎないように気を付けて」
「そうなの?」
私の注意喚起にルナリアが驚いたように振り返った。
ダメージが入っていないとは言わないけど、大きな個体は体格に比例してスタミナがあるものだ。
いくらかの負傷を負っていても反撃する余力を残している可能性は十分に有る。
「・・・みんなが遠慮したせいだろうけど、致命傷が入ってない」
「そうなのね」
狩猟で生き残ってきた私という人間を知るルナリアが、引き締まった表情でバンダースナッチに目を向け直す。