作品タイトル不明
第二次ブートキャンプ ㉚
「「「「「う、う~ん・・・」」」」」
悪夢でも見てるのかな?
意識の無い少年少女たちが寝言を呻く。
隙間が無くて寝苦しそうにしているように見えるけど、隙間が無い分、寝冷えして風邪を引くことは無いだろう。
一応、今は真冬だしね。
呼吸できないほどには詰めていないし、寝苦しくて目を覚ましてくれれば荷台の人口密度も下がる。
さあ、寝苦しさから逃れたくば目覚めるが良い。
この試練を乗り越えた者から満員荷馬車状態を抜け出せるのだー。
「上手く詰めていくわね!」
「・・・ちょっと可哀想だけど、全員をレティアへ連れて帰らないといけないからね」
褒められた!
感心したルナリアも私に倣って横向きに詰めていく。
魔力酔い患者の積み込みが終わった後には、崖上のバンダースナッチ回収作業も有るからね。
今朝もバンダースナッチらしき魔獣がワナに掛かっていることは、すでに確認済みだもの。
目一杯まで詰め込んで17人。
満杯になった荷馬車と空荷の荷馬車が入れ替えられる。
意識の無い少年少女43人を積んだ3台の荷馬車は、レティアへ向けて出発するまで採掘場内の隅っこに停め置かれる。
ここからはバンダースナッチの回収作業に取り掛かるから、また倒れる子たちが出るだろう。
3台で収まれば良いなあ。
残った37人と教導スタッフ陣は、崖下のワナの獲物回収作業を終えた猟師たちと合流して崖上へと上がる。
「ビネガーもシーヴァも準備万端ですぜ」
「・・・うん。ありがとう」
今日も今日とて、シュコー、シュコー、と水鉄砲を手にしている猟師さんたちの迫力に、少年少女は呑まれ気味―――、いや。困惑かな?
困惑は私もしてるけど。
手斧や投げ縄をベロリと舐めている猟師さんは居ないのだからヨシとしよう。
兵士さんたちが巻き上げ機を回して崖上の門が頭上へ引き上げられ、崖下と代わり映えしない森の景色が顕わになった。
トドメ用の手槍を手にした少年少女たちがゴクリと息を呑む。
ここから先は、“辺境”生まれの人間でも滅多に踏み入ることの無かった、人の手がほとんど入っていない領域だ。
「・・・行こっか。何頭かワナに掛かってるし、魔獣に急襲される可能性も有るから気を抜かないようにね」
「「「「「はっ!」」」」」
軽く脅せば、切れの良い返事を返した少年少女たちの表情が引き締まる。
実際には、アクティブソナーで崖上方面の2キロメートル程度の範囲を監視してるから、魔獣の急襲なんて私が許さないんだけどね。
もしも急襲されても探知から接敵までの距離が有るから、態勢を整えて迎え撃つだけの猶予は稼げる。
「・・・獲物を回収したら採掘場へ戻るよ」
「「「「「はっ!」」」」」
目的地が有って、私が周辺を警戒監視した上で進軍し、任務を果たして帰還する。
ほら。「今北産業」でもスキームを説明できてる。
「今来たばかりの私にこれまでの流れを3行で説明してください」って意味のネットスラングだけど、これ以上のスキーム説明は要らないよね?
どれだけ脳筋でも自分たちのするべきことを誤解しようが無い。
実戦訓練の“予行演習”としては、この形が最適だろう。
視線で合図すると、勇ましく胸を張ったルナリアがビシッと門外を指して号令を発する。
「出撃!」
「「「「「はっ!」」」」」
崖上の門から森に出て、ルナリアと私を先頭に新人さんたちの隊列が続く。
「どっち?」
「・・・あっち」
意気揚々と直進していたルナリアが、どっちへ向かえば良いのか分からないことに気付いたらしく私に顔を向けてきて、ワナに掛かっている獲物の方向をピッと指してルナリアの進路を修正する。
「分かったわ!」
私の介助で、「ツッタカター。ツッタカター」と擬音を付けたくなる元気な足取りでルナリアが転進する。
自信満々のルナリアが先導しているように見えて、正確には、こうやってアクティブソナーで獲物の位置を把握している私がルナリアを誘導しているわけだけど、新人さんたちには分からないだろうね。