作品タイトル不明
第二次ブートキャンプ ㉕
「・・・そろそろ、あっちも見に行くかなあ」
一仕事終えてシカの囲いへと目を向ける。
下から見上げただけでも、キャットウォーク上に見える人影の数が明らかに少なくなっている。
キャットウォークの足元へ目を向けても新人さんたちが下りてきた様子は無い。
そうなれば、キャットウォーク上の状況がどうなっているかは簡単に想像が付く。
魔力酔いでバタバタとひっくり返っているのだろう。
魔力酔いでひっくり返ることには一家言ある私が言うのだから間違いない。
気絶することにかけてはドカ食い気絶部にも負けないからね。
地上へと目を戻せば、必死の形相で魔力制御に集中しているメリーナさんとアイシアちゃんの姿がある。
工兵部隊から依頼された梁を魔力の手で持ち上げて、ロープで櫓にブラ下がっている兵士さんの誘導に従って指定の位置へ填め込もうとしているところだ。
うん。問題無さそう。
私の体感では自分の限界に挑んだだけ魔力制御は上達するのだから、頑張れ。
建設工事のお手伝いの残りは二人に任せて大丈夫だろうし、私は新人さんたちの回収に行くかな。
櫓を見上げているだけで作業をしていない手近な兵士さんを捕まえる。
「・・・荷馬車を2~3台、シカの囲いの下に回してくれるかな」
「了解しました!」
返事をした兵士さんが数人に声を掛けて駆け出して行く。
採掘場の中へ避難させていた馬を荷馬車に繋ぎ直す必要が有るから、作業にはしばらく掛かるだろう。
キャットウォークへ向かおうとすると、オーリアちゃんが体を起こそうとする。
「お供します」
「・・・ダメダメ。無理しないで。休憩するように言ったでしょ」
起き上がろうとするオーリアちゃんを手で制すると、オーリアちゃんだけでなくナンナちゃんまで困った顔をする。
「お、お一人で行かれては・・・」
「・・・上へ上がればルナリアとミセラさんたちが居るから大丈夫だよ」
歩いて行くと付いて来ようとするだろうから、敢えて、魔力の「足」でフワリと宙に浮かび上がる。
ハハッ、どうだ。これなら諦めるだろう。
「・・・じゃあ、ちょっと上を見てくるよ」
「「「「「おおお~!!」」」」」
私の思惑通り、二人が体の力を抜いたので、兵士さんたちの響めきを地上に残して一気にキャットウォークまで飛び上がる。
実際には「足」を伸ばしただけなんだけどね。
キャットウォークを見下ろせる高さまで上昇すれば、予想していた通りの光景が広がっていた。
「・・・おお。死屍累々」
まだ頑張ってる子は全体の半分ぐらいかな。
魔力酔いで気絶したと思われる少年少女が、キャットウォーク上にゴロゴロと寝かされている。
気絶者の全員が通路の隅っこに寄せられているのは、踏ん付けそうで作業の邪魔になるからだろうね。
私も踏ん付けないようにしないとなあ、などと頭の端で考えながらルナリアの姿を探せば、投げ縄を掛けたシカの吊り上げ作業中かな?
「ゆっくりよ! 慌てちゃダメだからね!」
「「「「「は、はいっ!!」」」」」
まだ作業を頑張ってる女の子のグループに、ああだこうだと指示を飛ばしながらルナリアが囲いの内側を覗き込んでいる。
ディディエさんとダーナさんはルナリアの腰に後ろから抱き付いての転落防止要員だ。
落っこちないようにガッチリと支えて貰っているとはいえ、身を乗り出し過ぎじゃないかな。
前のめりになって囲いの上に片足を乗っけちゃっている状態だから、組み体操の上段の人みたいにルナリアの重心は手摺りの向こう側へ乗り出しちゃっている。
あれでは、バランスを維持してくれているディディエさんたち二人が同時に 嚔(くしゃみ) でもしたら、囲いの中に落っこちちゃいそうだ。
「・・・ちょっと危うく見えるなあ」
安全対策としてルナリアの目の前に魔力の手を1本伸ばしてスタンバイさせておく。
バランス維持を躊躇なくディディエさんたちに丸投げして20メートルの高さに身を乗り出しているのは、私の背中に乗っかって地上50メートルの空中散歩をすることに慣れたせいだろうか?
ルナリアは順応性が高いからなあ。
「・・・絶叫コースター的な恐怖体験でもさせる?」
高所作業の危険性をルナリアが忘れているようなら、転落事故の怖さを思い出させる必要があるかも。
そのうち単独飛行が出来るようになるかも、とは考えたけど、私はルナリアに無用な危険を冒して欲しいわけじゃないんだよ。
万一の際に命を守るための「手段」が、命を危険に晒すようでは本末転倒だもの。
新人さんたちは? と視線を移せば、みんなルナリアの指示に、素直に従ってるね。
ルナリアは勢いが有って自信満々で引っ張っていくから、男の子たちも女の子たちも付いて行きやすいのだろう。
良い傾向だと安堵を覚えつつ高度を下げる。
シカは魔力に反応するから、刺激して作業の邪魔をしないようにと、静かにキャットウォーク上へ着地する。
「やっぱり、その術式、便利そうですね」
「・・・お疲れさま。ピーシーズは発動に成功したから、次はミセラさんたちだよ」
「それは楽しみです」
お? と、掛けられた声に振り向けばミセラさんたちが3人揃っている。