作品タイトル不明
第二次ブートキャンプ ㉒
「もう少しだけ回転させてください!」
「・・・はーい」
穴の間際で作業の進捗を確認している工兵さんの一人が、頭上に挙げた腕をグルグルと回している。
時計回りで良いのかな?
「少し」って指示だから、一気に回さず徐々に回す。
丸太材の切り込みと地面に張ってあるロープが平行になったタイミングで、工兵さんが腕を回すのを止めて、「止め!」って感じに合図してきた。
「そこで大丈夫です!」
「・・・りょうかーい。次、行くよー」
1本目の丸太材が倒れないように魔力の手で支えたまま、もう片方の奥側の穴にも2本目の丸太材を差し込む。
1本目と同じように回転させて位置を合わせ、3本目、4本目と柱を立てる。
「ありがとうございます! 助かりました!」
「・・・崖の穴に木材を差し込むのも手伝おうか?」
頭を下げる工兵さんに、良いよ良いよと手を振る。
喜んでくれるのかと思えば、逆に工兵さんは心配そうな顔をした。
「えっ? 何かの訓練中だったのでは?」
「・・・うん。だから、訓練の一環で手伝うよ」
「ええ?」
訓練の邪魔をしないようにと気を使ってくれたんだね。
でも、ヘーキ、ヘーキ。
ここから先の作業を手伝うのは私じゃないし。
目の前に魔力の手の練習台に適した作業が有るなら一石二鳥を狙わねば。
4本の柱が動かないように4本の魔力の手でガッチリと維持したまま、クルリとピーシーズに顔を向ける。
「・・・そういうわけだから、やってみようか」
「「「「「は、はいっ」」」」」
「・・・大丈夫、大丈夫。出来る出来る」
修造式で不安そうなピーシーズを鼓舞する。
チラリと見れば工兵さんたちが梁の準備を始めている。
次の作業が始まるまで、数分ぐらいは時間に余裕は有るだろう。
目にしたお手本のイメージが薄れてしまわない内に、ピーシーズに成功体験を積ませてしまおう。
「・・・試しに、さっきの小枝を魔力の手で掴んでみようか」
「「「「「はいっ」」」」」
それぞれに意識を集中したピーシーズが、小さく範囲を絞った防御魔法を発動し始める。
「あっ! 掴めました!」
「私も!」
早々に成功させたのはネイアさんとオーリアちゃんだ。
2本の小枝が宙に浮いていて、自由に動かせるのを確かめるように、ピュンピュンと風切り音を立てて小枝が動く。
「・・・おめでとう。じゃあ、もっと大きな木材でも試してみようか。上達するには繰り返し使って慣れることだよ」
「「はいっ!」」
器用な二人が無難に成功させたことに驚きは無い。
労ったらすぐに工兵部隊の方をピッと指し示して、1抜けと2抜けの二人を実戦へと送り出す。
置いて行かれた3人の表情に焦りの色が出ている。
私は引き続き3人の練習を監督する。
「・・・焦らなくて良いから、落ち着いてやってみよう」
「「「は、はい」」」
真剣な顔で残りの3人が小枝を凝視している。
まだ「壁」のイメージが抜けないかな?
「・・・盾だよ、盾。手に持った盾は自由に動かせるでしょ」
「はい―――、ハッ! 出来ました!」
おお。大人しいナンナちゃんが大きな声ではしゃぐとは、よっぽど嬉しかったんだね。
「・・・はい。おめでとう。ネイアさんたちに合流して」
「はいっ!」
スキップ紙一重の弾む足取りでナンナちゃんが作業を手伝いに行った。
ナンナちゃんが3抜けしたことで、残ったメリーナさんとアイシアちゃんの焦りの色が濃くなる。
「「むむむむむむ・・・!」」
「・・・焦らない焦らない。大丈夫。大丈夫」
小枝と睨めっこして唸っている2人を宥めながら先行組の3人の姿を目で追えば、問題なく魔力の手を使えているようだ。
ちょっと木材がフラフラしているように見えるけど、あれは重量的なものじゃなく、自分から距離が離れたことによる魔力制御の甘さが原因だろうね。