作品タイトル不明
第二次ブートキャンプ ㉑
「・・・さあ、やってみて」
「「「「「はいっ」」」」」
真剣な表情のピーシーズが小枝を凝視して、それぞれに挑戦し始める。
そんなに時間は掛からないだろうなあ、なんてピーシーズを見守っていたら、工兵部隊の兵士さんが、こっちに向かって小走りに駆けてきた。
私の目も兵士さんの姿に釣られたけど、兵士さんの接近に気付いたピーシーズの手も止まってしまった。
「フィオレ様! お願いできますか!」
「・・・分かった。」
兵士さんに頷き返して、ピーシーズへと視線を移す。
「・・・みんな、お手本を見せるから、よく見てて」
「「「「「はいっ」」」」」
腰のポーチから魔石を取り出しつつ、ピーシーズを引き連れて作業現場へ向かう。
なるほど、これか。
構造体の柱を立てるためのものだろう穴が、正方形を象るように、地面に4つ空いている。
「・・・この穴に丸太材を差し込めば良いんだよね?」
「その通りです。あそこの資材を使ってください」
工兵さんが指した先には、幹の数カ所に丸く歯形で囓り取ったように切れ込みが入れられた丸太材が寝かされていた。
ははぁ。ログハウスの壁材みたいに横向きの梁を噛み込ませるわけか。
きっと、穴の深さも切れ込みの位置も計算尽くで加工してあるんだろうね。
崖上を見上げれば、ロープで降下してくるつもりで有ろう高所作業の準備をしている兵士さんたちが、体にロープを巻き付けている。
あれってラペリングってヤツかな?
地球のラペリングとロープの巻き方が同じなのか私には判別できないけど、考え方は同じなんじゃないかな。
「・・・あの切れ込みの向きを外側へ向ければ良いのかな?」
「はい。お願いします」
念のために確認を入れると、話が早い、といった風に工兵さんが頷いた。
私は柱を穴に差し込んで、正しい位置で工兵部隊の兵士さんたちが横梁を固定し終わるまで保持すれば良いわけだ。
「・・・了解。柱の向きは指示してね」
「承知しました」
頷いて返してきた工兵さんが自分の配置へと戻っていく。
丸太材を寝かせてある一角へと魔力手を4本伸ばして、1本ずつ掴み取る。
魔力による不思議パワーが重力による抵抗を軽くねじ伏せて、直径1メートルぐらいある柱が音も無く宙に浮いた。
「「「「「おお~!!」」」」」
兵士さんたちだけでなく、ピーシーズも一緒になってパチパチと拍手している。
兵士さんたちに片手を挙げて応えながら、ピーシーズへと目を向ける。
「・・・さっきの小枝も、この丸太材も同じだよ。魔石を通して魔力を伸ばした先に防御術式を発動させて掴んでる。これが魔力の手」
「「「「「はいっ」」」」」
目の前で私がやって見せることで、みんなの心理に「できる」という意識を刷り込む。
小枝と丸太材で大きさが全然違うからこそ、「できない」という否定的な心理を否定する。
魔法というものが物理法則を超えてイメージを実現するものだと説いて理解させるよりも先に、「実際、できてるじゃん」と普通の常識を現実で塗り潰す。
脳筋を分からせるには、これが一番、手っ取り早いと思うんだよね。
自然科学を知れれば知るほど物理法則を無視した「魔法の有り得なさ」に「どうなってんの?」と驚かされるはずなんだけど、脳筋を分からせるのに理屈は要らない。
頭の中まで浸食した筋肉は物理法則をも凌駕して、不思議を不思議と認識しないのだから。
むしろ、変に理屈を教えると、正気に戻って混乱し始める可能性の方が高いだろう。
ウォーレス領の人たちと一緒に暮らしてきて、肌で覚えた私の方法論の正しさを証明できるかどうか。
丸太材を差し込むべき穴は、崖と平行して奥側に2ヶ所と手前側に2ヶ所。
この4ヶ所に丸太材の柱を立てて梁で繋げば四角柱の構造体が出来上がる。
タテヨコの比率で言えば、8対1ぐらいだろうか。
立体駐車場みたいにピューッと背の高い構造物になるから転倒しないか不安になるよね。
そう思って崖面を見上げれば、恐らく木材を差し込んで構造体と繋ぐのであろう穴が、崖面にも点々と空いている。
横材を差し込んだ後で崖面をギュッと固めれば崩落を防止できるって理屈かな。
プロがそれで大丈夫だと言うなら、大丈夫なのだろう。
構造上の耐久力計算なんて計算式は知らないけど、感覚的に私も大丈夫だと思うし。
人が住む建物じゃないんだし、細けえこたあ良いんだよ。
柱を立てる4つの穴のうち奥側の穴から、そっと丸太材を差し込んでいく。