作品タイトル不明
第二次ブートキャンプ ⑯
「移動準備だ! 急げ!」
「「「「「おうっ!」」」」」
気合いの入った顔でキビキビと動き始めた第4班の中には、アイシアちゃんのお兄ちゃんもいる。
移動準備の命令が下ったことを聞きつけた他の班も休憩を切り上げて、バタバタと馬車へと戻り始める。
今朝、領主館を出発したときの荷馬車は15台だった。
猟師さんたちの荷馬車が5台に、新兵訓練部隊の荷馬車が10台だ。
今、猟師さんたちはククリ罠の初心者訓練には付き合わず、前日分までのワナを回って獲物を回収しに先行している。
新兵訓練部隊の荷馬車も半数は出荷に回る予定だから、帰りに人員用となるのは残りの荷馬車という輸送計画だね。
「・・・私たちも行こっか」
「「「「「はい」」」」」
ピーシーズの返事で繋いである馬たちに向かって歩き始めると同時に、アイシアちゃんが大きな溜息を吐いて肩を落とした。
「すみません。お待たせしました」
「・・・気にしなくて良いよ。誰だって得手不得手は有るし、性格的な向き不向きも有るしね。やり方を教えた以上、そこから先は本人の努力の積み重ねだから」
「そうですか・・・。そうですよね!」
キョトンとしたアイシアちゃんの中で言われたことの理解が広がると、パッと表情が明るくなった。
これ、私は別にアイシアちゃんを慰めているわけじゃなく、本気で言ってるんだよ。
お母様が授業で言っていたように、頑張って積み重ねた努力は、その人のものであって、誰かのためじゃない。
脳筋なアイシアちゃんにとっても、人に教えるという行為は無駄な経験じゃないし、教わったアイオスくんにとっても覚えるのに苦労した経験は無駄にならない。
そこから先は、本人が積み重ねる経験と知識を、分厚く太く育てていくものだからね。
「・・・アイシアちゃんは、アイシアちゃん自身のことを頑張れば良いんだよ」
「はいっ!」
ヨシヨシ。アイシアちゃんも地道にコツコツと頑張れる子だから、これからも頑張って成長してくれることだろう。
アイオスくんたちも脳筋村が生んだ脳筋サラブレッドなんだから、ビリになった悔しさをバネにハッスルしてくれるはずだ。
「・・・メリーナさん、ネイアさん。さっきの話、アイシアちゃんにも話しておいてね」
「「はい」」
連絡事項は年長組の二人に任せて、ルナリアと二人でえっちらおっちらと鞍によじ登る。
どんなにイイことを言おうが物理的に身長が足りない私たちは、サッと格好良く馬に跨がれないからね。
魔力の「足」でヒョイと上がることは出来るんだけど、一応、私たちの切り札では有るから、常用して見せびらかすのはよろしくない。
どこかで間諜が見ていて「アイツは飛ぶもんだ」と私たちの情報を得ていても、どう飛ぶのか、どういう理屈で飛ぶのかは、「よく分からない」状況で残しておかないと、変に対策を練られても困るし。
「・・・じゃあ、出荷作業に行こうか」
「「「「「はっ!」」」」」
ルナリアと私の馬を先頭に、荷馬車を引き連れた馬列は直線道路を森の奥へと進んだ。
直線道路の終点に採掘場が見えてくる。
ポックリポックリと鞍で揺られながら接近してみれば、採掘場の門が開け放たれたままだ。
おや? 何だか人の数が多いな。
工兵部隊かな? 積み上げてある資材も増えていて、全ての荷馬車を場内へ入れられそうにない。
荷馬車の列に門前で停止の合図を送って場内に入り、警備に就いている顔見知りの兵士さんを捕まえる。
手招くと見覚えの有る工兵部隊の兵士さんも一緒に連れて来てくれた。
「・・・今日は、どうしたの?」
「アレですよ。櫓を組むんです」
採掘場で工兵部隊が「アレ」と言うってことは、アレのことだろう。
「・・・ああ。馬用の?」
「はい」
なるほど。リフトの建設か。
ここ数日、城壁移動の件も有って、工兵部隊も忙しそうにしてたものね。
城壁の方の工事もまだ色々と作業が残っているらしいのに、採掘場の工事を前倒しにして来てくれているわけだ。
城壁工事の残りが何の作業かと言えば、最優先はお 濠(ほり) の復旧だよ。
今朝、お母様に言われるまでお濠の存在を忘れてた、というか、ぜんぜん気付いてなかったんだけど、城壁の移動工事に備えて工兵部隊がお濠を埋め戻していたんだって。
私が坑道戦術対策だと思っていた城壁の地下部分は、お濠の深さ分の城壁だったらしい。