軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二次ブートキャンプ ① アンサンブルキャスト面

「フレイア様。おはようございます」

領主館の女中に案内されて入室してきたエルザの声に、ティーカップをソーサーに戻したフレイアは目を向けた。

食堂内には女中姿のエゼリアとアンリカが居て、フレイアと一緒にお茶を飲んでいたのか、僅かな形跡も残さず見事な手際で自分たちのティーセットを片付ける。

エゼリアたちの要領の良さも相変わらずだ。

「早いな。少しは休めたか?」

「実は、領主館は久しぶりでしたので、少し緊張してしまって」

「まあ座れ」

困った表情で苦笑するエルザにフレイアは席を勧める。

エゼリアに席まで案内されたエルザは、お茶を淹れてくれたアンリカに目線で謝意を伝え、対面に座るフレイアへと目を向け直した。

「フレイア様も、相変わらず随分とお早いのですね」

「子供たちが出掛けたから、見送りにな」

フレイアから返った意外な言葉にエルザは目を丸くした。

今は早朝も早朝、年が明けたばかりだというのに、空が白み始めた時間に小さな子供たちだけで、すでに出掛けた後らしい。

もちろん、オーリアの同僚たち側近を引き連れてのことだろうが、それにしても早い。

「あら。ルナリア様とフィオレ様がですか?」

「あいつらは毎日この時間には採掘場へ出掛けるからな。日課だから気にするな」

この時間に活動を始めているのが日課となると、次代の領主たちは随分と勤勉な性質のようだ。

フィオレには魔法術式の才能が、ルナリアには剣術と身体強化術式の才能が有ることは、ピーシス領を訪れてきたときに確認している。

それぞれに、ずば抜けた才能を持っていて、なお、人並み以上の努力を惜しまないともなれば、道理で延びるはずだ。

それも、日課として、“あの”採掘場へ向かったという。

「日課と仰いますと、例の血の?」

「魔獣の出荷だ。ピーシーズの追加人員とアスクレーに付ける部下を鍛えると言ってな」

エルザが敢えて含みを持たせた問いに、回りくどいことを嫌う性質のフレイアは直接的に答えた。

すっかり領内に呼び名が定着した「ピーシーズ」とは、ピーシス家当主フィオレ直属の側近たちの愛称で、ルナリアの最側近であるフィオレ直属部隊としてウォーレス家当主ルナリアの側近も兼ねている。

アスクレーとはフレイアの義妹ミリアの次男で、フィオレの許婚と定められたことは領内の誰もが知っている。

異国人であるフィオレが元当主マルキオの実子であるミリアの次男と結ばれることで、ピーシス家のウォーレス血統は受け継がれると領民たちは安心している。

そのアスクレーの側近となる騎士候補をフィオレが鍛える?

第三王女殿下の護衛部隊を急募していたこともジアンから聞いている。

なるほど。フレイアの言う通り、フィオレたちの目的は部下たちに血を飲ませることのようだ。

ピーシス領の少年少女たちは、立ち直ったジアンがレティアから戻って即座に召集して、性根を叩き直していたので、引き続きフィオレが鍛えるなら良い経験を得られることだろう。

有象無象が 蔓延(はびこ) る王宮の思惑を排してピーシス騎士が王家の護衛を引き受けるなど、大丈夫なのかと案じていたが、フィオレは本気で取り組んで居るらしい。

それにしても、「出荷」か。

「それで採掘場ですか。フレイア様もバイコーンを食肉扱いすることに、すっかり馴染んでいらっしゃるようですね」

「興味深いぞ? お前も採掘場へ通うようになれば慣れる」

冗談めかして投げ掛けた言葉に、ニヤリと笑みを浮かべたフレイアが返してきたのは、またしても意外な答えだった。

自然、エルザの首が傾ぐ。

「私も、ですか?」

「治癒魔法術師になることを承諾したんだろう?」

昔と変わらずフレイアが見せたイタズラ坊主のような笑みの意味は、これか。

諦めの心境で小さく溜息を吐く。

エゼリアたちだけでは飽き足らず、エルザも実験に付き合わされることは多々有った。

「騎士でなくても魔獣の血を飲まされるのですね・・・」

「騎士? ああ。オーリアから聞いたのか」

たった一つの言葉の端でフレイアは状況を察する。

社交の道へ進んでいてもフレイアはミリアに劣らぬ逸材となっただろうに。

フレイアが読み取ったように、魔獣の血を飲まされることをエルザの耳に入れたのはオーリアだ。

「ええ。フィオレ様にお仕えするようになって以降、あの子も見違えるように体内保有魔力量が増えた様子で」

「私も増えているんだが、信じられんか?」

「いえいえ。そういうわけでは」

ことの概要を聞いた限りでは機密情報として統制が掛けられそうなものなのに、フレイアの口振りからも情報を隠匿する意志は無いように感じられる。

何らかの思惑が有っての措置だろうと思索を巡らしながらも、エルザは自分の口元が緩んでいることを自覚する。

「何だ?」

「懐かしいですね。昔のフレイア様に、フィオレ様はよく似ていらっしゃいます」

目敏くエルザの表情を読み取ったフレイアに、エルザはからかいの暖かい目を向けた。

「そ、そうか?」

「夢中になると止まらなくなるところも、やり遂げてしまわれるところも」

ご祈祷の最中に、集中するあまり周囲の状況に気付いていなかったフィオレの様子は、少女時代のフレイアを強く思い出させるものだった。

照れくさそうに目を逸らすフレイアに、シェリアの側近としてフレイアの世話をしていた昔の気分にエルザは戻っていた。