軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二次ブートキャンプ ② アンサンブルキャスト面

「そうだったかな」

「ええ」

薄らと頬を赤くしているフレイアに笑みを返して、ティーカップに口を付けながらエルザは意図を測る。

「子供たちの見送りに」とフレイアは言ったが、探求が結論に至れば次の興味に移るフレイアが「興味深い」と言うのだから、まだ結論に至っていないのだろう。

結論に至るまで探求を諦めないフレイアが採掘場へ同行せず、こうしてエルザの前にいるということは、その必要性が有ったからエルザを待っていたと見た方が良い。

何の必要性か?

恐らく、この治癒魔法術師の件こそがエルザを待っていた理由だろう。

フィオレに誘われて承諾はしたが、エルザはどこまで本気で捉えて良いものかを測りかねていた。

確かにフィオレは「高確率で成功する」と言っていたが、治癒術式の習得は容易ではない。

治癒魔法術師の少なさは周知の事実で、事実こそが現実を示している。

その思いがエルザの口を突いて出る。

「私に出来るのでしょうか」

「フィオレは確信しているようだぞ。そうで無くとも、フィオレは12人の内、8人に治癒術式の発動を成功させて見せた」

エルザは目を瞠った。

治癒魔法術師志願者の3分の2が発動に成功?

それが事実なら本当に高確率だ。

世界の常識が塗り変わる。

このウォーレス領を中心として変革が起きる。

しかし、本当にそんなに簡単に治癒魔法術師を増やせるものなのだろうか?

驚きを覚えると同時にエルザは疑念を感じた。

フレイアが―――、いや。フィオレが何らかの効率的な教育方法を編み出したとして、その教育を受けた者は新たな弟子なり生徒なりを取り、次の治癒魔法術師を育てることになるだろう。

有益な情報を開示すれば、その情報が広まることを阻止する方法は無いと言える。

それはウォーレス領の―――、王国の優位性を投げ棄てることにならないか?

多くの人々を救うことが出来るようになるのは素晴らしいことだとエルザも思う。

だが、フレイアは為政者の一人だ。

そのフレイアが有益な情報を無秩序に広めるような真似をするとは思えない。

フレイアの考えがエルザにはどうにも掴めないのだ。

この状況にエルザはどう向き合えば良いのか。

表向きは隠居したとはいえ、事実上の領主で有るフレイアの決定に異を唱えるつもりは無いが、裏に何らかの目的が有るなら、それを知っておかないと結果的にエルザはフレイアの意に背いてしまう事態も有り得るのではないか。

「あら。随分と簡単に成功するのですね」

「そう簡単でも無いぞ」

探りを入れたエルザの問いに、フレイアはアッサリと否定した。

どういうことなのか。

フィオレが効率的な教育方法を発見したという話ではないのか?

相反するような答えにエルザの首が傾ぐ。

「そうなのですか?」

「これはフィオレが立てた仮説だが、普通は治癒術式の訓練に用いる患者を、そう多くは用意できん。それは神教会であっても同じだ」

「それは、そうでしょうね。それが治癒魔法術師の少なさの原因だと?」

怪我人というものは事故や事件、あるいは戦争によって生まれ出るものだ。

治癒術式の情報を独占している神教会であっても、根底にある「環境」は変わらないだろう。

「推論として筋は通っている。神教会が治癒術式の技術を秘匿している状況がフィオレは気に入らんようでな」

フレイアの肯定にエルザは真意を考察する。

養成施設の計画は間違いなく領主一族の総意で進められている領地の―――、ウォーレス家の事業だ。

事が事だけに、王家の―――、王国の事業となる可能性も有る。

いや。あのとき、フィオレは「近隣諸国まで巻き込む」と言っていなかったか。

王家とウォーレス家の血が別れて長いが、両家の関係は近い。

王家の護衛をピーシス家が務めることから、さらに王家とウォーレス家の関係が近くなっていることは明確に察せられる。

フレイアが技術を秘匿する気が無さそうなのは、すでに王国の事業になっているということではないか?

なぜ?

莫大な利益を生み出す革新的技術発展をウォーレス家が投げ棄てた理由は?

フレイアは「フィオレは気に入らないようだ」と言った。

この一言は、治癒魔法術師に関連する事業が、フレイアの主導するものではなくフィオレの主導だと示唆している。