作品タイトル不明
初めての新年 ㉓
「フィオレ」
「・・・お母―――、うぷ」
私を呼ぶ声に振り向いたら、腰を屈めたお母様にギュッと抱きしめられた。
大きな胸に溺れそうになってムグムグと身じろぎして呼吸を確保したら、隣でルナリアもお父様に抱きしめられて、海老反りになってお父様の背中をタップしていた。
家族のコミュニケーションにまた大きな歓声が上がって観衆も大盛り上がりだよ。
「よくやったな。お疲れさん」
「・・・うん」
思う存分、ぐりぐりしたお母様とお父様が交代して、今度はお父様に抱きしめられる。
儀礼的じゃないお父様からのスキンシップは何気に初めてかも知れない。
「ありがとう。フィオレ」
「・・・はい」
ありがとう、か・・・。
お父様もお母様も、あの超常現象にマークスお兄さんたちが無事に精霊の下に還ったと実感したわけだ。
本当にそうだったら良いな。
事実がどうか、の問題ではなく、遺された者たちが明日に向かえることが最も重要なのだと感じた。
そっか。そうだよね。
このご祈祷には新しい一年の加護を願うだけじゃなく遺された者たちの心を整理させる意味が有って、慰霊碑の在り方と同じものなのだと、頭で理解するのではなく、お腹の中にストンと落ち込んだ。
お父様の後には、お婆様たちにもお爺様たちにも、順に抱きしめられて褒められた。
みんなが心安らかに居られるのなら、これからも打算なしで続けても良いな。そう思える。
「エルザ。コーネリア。お前たちもご苦労だったな」
「勿体ないお言葉です」
ハインズお爺様の労いにエルザさんたちが頭を下げて答える。
真摯な目差しでハインズお爺様が首を振る。
「片付けが終わったら領主館で休んでいくといい。朝になってからで構わんが、色々と話したい」
「それは・・・」
お爺様は超常現象の所見を訊きたいのかな?
推察に過ぎないけど、為政者として超常現象の発生原因を把握しておきたい気持ちは分かる。
コーネリアさんが目を丸くして、エルザさんが困った様子を見せる。
何だろう? この反応。
エルザさんに助け船を出したのはシェリアお婆様だ。
「子供たちのことでしょう? 孤児院には人を向かわせます」
「でしたら、私が先に戻ります。目が覚めたときに私たちが居ないと泣く子も居ますから」
シェリアお婆様の申し出にコーネリアさんが挙手で答えた。
ああ、それもそうだろうね。
誰か大人に留守番を頼んできたのかと思っていたら、そうでは無かったようだ。
小さな子供たちが寝入ってから出掛けて、子供たちが目を覚ます前にピーシス領へ帰るつもりだったんだね。
街灯一つ無い真っ暗な夜道を押し通るなんて結構な強行軍で、孤児院が人手不足で余裕が有るとは言い難い運営状況だったことが察せられる。
先日話したときの様子やオーリアちゃんから聞いて私が想像していたよりも、孤児院の実情は厳しいのだろう。
もちろん、周囲の援助や協力は有るのだろうけど、誰しも、自分の生活が最優先になるのは仕方ない。
私も駆け足で行き来する形よりも、数日掛けてピーシス領を視察するべきだったな。
オーリアちゃんから聞いていたのに、私は前を見るばかりで足元の現状把握が不十分なのだと自覚させられた。
現状把握はジアンさんとマリッドさんに相談するべきだな。
そして、養成施設の建設も急ぐべきだ。
エルザさんは孤児院が養成施設の下部組織として組み込まれることにも否定的ではなかったようだし、早めに環境を変えてあげたい。
養成施設の建設予定地は新たに森を切り拓くことで了承が取れているし、早々に、伐採作業にも着手しないとな。
ピーシーズが風ジェットカッターの練習台に伐採作業を希望していたし、増員メンバーの訓練も有る。
日にちも無いし、そっちは早速取り掛かるとして、今はエルザさんの懸念を取り除いてあげないと。
ふむ・・・。ここは私の権限内で打てる手を打っておくか。
「・・・じゃあ、オーリアちゃん。今日はお休みってことで、コーネリアさんの護衛を頼める? エルザさんが帰るときにも護衛が付くだろうから、レティアへ戻る護衛の人たちと一緒に戻ってくると良いよ」
「了解です」
コーネリアさんと顔を見合わせたオーリアちゃんがニコッと笑って了承を返してきた。
思っていなかったタイミングだろうけど里帰りだ。
お正月だし、家族を護衛して帰るついでに少しだけ骨休みしてくると良いよ。
これだけの領民が集まっているのだからピーシス領へ帰る人は他にも居るだろうし、帰宅者を募って集団行動させれば夜道でも安全を確保できるだろう。
私たちの様子を見届けていたセリーナお婆様が、エルザさんへと視線を戻してニコリと笑う。
「これで良いかしら?」
「お召しに応じさせていただきます」
心配の種を取り除かれたエルザさんもフワリと微笑んで返した。