作品タイトル不明
初めての新年 ㉒
「ルナリア様、バンザ―――イ!!」
「フィオレ様、バンザ―――イ!!」
「ウォーレス家、バンザ―――イ!!」
「ピーシス家、バンザ―――イ!!」
「・・・むー!!」
ビックリしたじゃん!!
なに考えてたのか忘れちゃったよ!!
ご近所迷惑だよ!? 今、何時だと思ってんの!!
大興奮状態の観衆を睨んでも、興奮状態のウォーレス領民が鎮静化するわけが無い。
くっそおおお。この脳筋どもめ。
私、なに考えてたっけ?
絶賛興奮中なのは観衆だけじゃなかった。
私の視線を遮って視界に割り込んできたのはルナリアの顔だ。
「すごい、すごい、すごい! すごかったわよ、フィオレ!! すっごい綺麗だったわ!!」
「・・・えっ? ああ、すごかったね」
ガッシリと私の両肩を掴んでキラッキラの目でピョンコピョンコと跳ねているルナリアを受け止めていたら、お代わりが来た。
「フィオレ様!! 凄いです!! こんなの初めてです!!」
「・・・お、おおう。そ、そうなんだ」
近い近い近い!! 顔が近すぎる!!
ルナリアを押し退ける勢いでコーネリアさんが迫ってくる。
「私、途中から、祝詞を諳んじるのを忘れちゃいました!!」
「・・・えっ!?」
途中から唱えてなかったの!?
ざわざわと祝詞に必死で気付いてなかったよ!!
チラッとルナリアを見ると、ルナリアもフンフンと頷いている。
ルナリアもかい!!
みんな途中から唱えるのを止めていたなんて、教えてくれれば良いじゃん!!
この調子だと、たぶん、エルザさんもだな。
もしかして、私一人で唱えてたの!?
「精霊様!! 精霊様ですよ!!」
「・・・ああ、うん」
落ち着いた感じの美少女だったコーネリアさんも頬を上気させてグイグイくる。
13歳と6歳じゃ身長がぜんぜん違うんだから、覆い被さるように迫られては海老反ってしまう。
そして、迫ってきたのは子供たちだけでは無かった。
「フィオレ様」
「・・・エルザさん」
掛けられた声に振り向くと、感極まった感じの未亡人がいた。
涙は拭ってあるけど泣き腫らした目は赤くなったままだ。
腰を屈めたエルザさんの暖かい手に両手をキュッと掴まれる。
「ありがとうございます。あの人も、きっと精霊様の下へ還ったのだと信じられます」
「・・・う、うん。そうだね。きっとそうだよ」
「はい」
何で私にお礼を言うのか分からないけど、私のせいじゃないよ、とは言い出せなかった。
エルザさんが本業の孤児院長と祈祷師を兼業していたのは、亡くなった旦那さんのご冥福を、あるいは転生を願ってのことだったと、上っ面の言葉じゃなく理解できてしまったからだ。
私だってフレーリアやオルレーシア様が新しい生を受けられることを願ってるしね。
あの超常現象でエルザさんが望んだ結果を確信できて、新しい明日を迎えられるなら良かったよ。
そして、それは治癒魔法術師候補者にスカウトしている私の望んだ結果でも有る。
私の思考回路は俗物そのもので、私は決して聖人君子じゃない。
エルザさんが前を向いて本気で治癒魔法術師を目指してくれるなら、芋づる式にコーネリアさんも確実に釣れるだろうし。
お母さん役のエルザさんとお姉ちゃん役のコーネリアさんの二人が治癒魔法術師になってくれれば、二人の庇護下に有る孤児院の子供たちも治癒魔法術師を目指してくれる可能性が高くなるんじゃないかな。
だって普通、子供は身近な保護者の背中を見て育つものだろうからね。
捕らぬ狸でホクホクしている私の笑みに、エルザさんとコーネリアさんが純真な笑みを返してきた。
ただ、コーネリアさんの目がキラッキラになっているのが気になるな。
「フィオレ様はお優しい方ですね」
「・・・へ?」
エルザさんの言葉にコーネリアさんがブンブンと頷く。
な、何でそうなるの?
ホクホクしていた笑みを慈愛の笑みか何かに誤解されたんだろうか。
「フィオレ様は精霊様に祝福されておられるのだと思います!」
「・・・そ、そう」
何で私?
否定しづらいコーネリアさんの勢いに口ごもる。
ざわざわが荒ぶっていたことも有って、さらに否定しづらい。
かと言って、ルナリアも一緒だったし、エルザさんとコーネリアさんも一緒だったじゃん。
オカルト系の超常現象が私の引き起こしたものだと確定したわけじゃないし、戦隊モノみたいに特定メンバーが揃えば真の力を発揮して、その結果、超常現象を引き起こすのかも知れないじゃん。
メンバー数が偶数だとバランスが悪い気がするけどキメポーズを考えておくべき?
中央(センター) は年功序列によりエルザさんにお願いするけど。
ていうか、このコーネリアさんの大袈裟な感じ、どこかで見た感じの反応だと思ったら、ディディエさんたちだな。
昨日―――、もう一昨日か。一昨日は普通だったエターナさんの様子も城壁を移動した後には、今のコーネリアさんと似たような気配になっていた気がする。
ディディエさんたちとコーネリアさんに濃厚接触は無かったはずだけど、相乗効果でパンデミックを起こしたりしないよね?
孤児院では職業訓練を兼ねて近隣の農作業を手伝ったりしていたはず。
孤児たちの引率を年長者のコーネリアさんが務めることがあるだろうことは、簡単に想像が付く。
ディディエさんたちが農業アドバイザーとして活動を始めたら、濃厚接触が起こる可能性が高くなるから注視しておかないとなあ。
コーネリアさんまでディディエさんたちみたいに謎の行動を取り始めては対応に困るし。