作品タイトル不明
初めての新年 ㉑
「・・・ん?」
祝詞が終わったのにルナリアが反応しないから視線を巡らせると、コーネリアさんもルナリアと同じようにポケーッと空を見上げていて、エルザさんに至っては空を見上げてハラハラと涙を流している。
「・・・ええ? どどどどういうこと?」
慌てて振り返ると、お爺様たちは奥歯を噛みしめているような表情で空を見上げていて、お婆様たちはハンカチで涙を拭いていて、お父様とお母様は涙を堪えるように空を見上げている。
エゼリアさんたちもミセラさんたちも泣きそうな表情で空を見上げていて、ディディエさんたちやエターナさんは空を見上げながら洟を啜って涙を流している。
「・・・空?」
お母様たちの背後に見える観衆へと視線を移せば、みんなが一様に上を見上げていて、お婆様たちと同じように涙を拭っている人の姿がチラホラある。
警備任務中の騎士様たちや兵士さんたちまで表情を歪めて泣きながら空を見上げている。
みんなの様子に気を取られていたせいで、ここで初めて、みんなが何を見上げているのか確認していないことに気付いて、私も頭上を見上げた。
「―――ッ!!」
予想しない光景に言葉を失った。
何だかよく分からない無数の小さな光が、冬晴れの星空を背景に浮かんでいる。
夜空の星よりも輪郭がぼんやりした、蛍の光のように小さく淡い光の粒が、ふわふわと立ち上っている。
「・・・なにこれ・・・」
ゆっくり、ゆっくりと、そよ風に吹かれるように、上空に昇っていった光の粒は森の方へと流されていく。
いや。森に吸い寄せられている?
蛍の光みたいだけど、あれは生き物じゃないと感じる。
生命感が感じられないんだよ。
換気扇に吸い出されていくホコリみたいな動きだな、と、考えた瞬間、抗議するようにざわざわが胸の中で暴れた。
ゴメン、ゴメン。悪かったって。
プンスコと怒っているときのルナリアみたいな感じだ。
自分の胸を見下ろして、荒ぶっているざわざわを宥めている間に、光の粒の驚きも、幻想的な光景の感動も、どこかへ引っ込んでしまった。
「・・・うーむ」
改めて空を見上げる。
冷静になってしまった頭で見上げた空では、慰霊碑の天辺まで舞い上がった光の粒が、森の木々の樹上を超えて行っている。
”魔の森”の木々は、大体、樹高が地上30メートルぐらい。
森の奥へ行けば、もっと背の高い木が生えているらしいけど、森の入口にあたるレティア周辺の木々は、そのぐらいの背丈しかない。
つまり、あの光の高度は上空30メートル以上ということだ。
でも、目測の高さでは森の木々の2倍ってことも無いだろうから、上空50メートルまで上がれば、かなり間近で観察できそう。
あの光がどこへ飛んで行くのか追い掛けて行ってみたい衝動に駆られたけど、武器も魔石も持たずに夜の森に突入するなんて、セリーナお婆様判定による「反則負け」コースは確実だと思い直して追い掛ける案は即座に諦めた。
ざわざわが暴れて光の粒が飛んで行って・・・?
これって、ざわざわと何かの関係が有るんだろうけど、何なんだろうね?
魔力? 精霊?
いやいや。死霊系の魔物なんてオカルト的な存在が実在するんだから、故人を追悼する観衆の思念が何かとオカルト連鎖反応を起こして何かの魔法が発動したとか・・・?
無いだろうなあ。
だったら、やっぱり魔力か精霊か。
そっちの線が濃厚なんだろうなあ。
だって、エルフ族は精霊魔法を使っていたって色んな文献に残っているんだから、こっちの世界に精霊が存在するのは確実じゃん。
エルフ族が居なくなったからって精霊まで居なくならないでしょ。
エルフ族の滅亡で観測方法や接触方法が失伝しただけと考えた方が論理的だよ。
そこで気付いた。
あー。光の粒は、森に吸われていったというか、森に帰っていったというか、そんな風に見えたよね。
精霊信仰の「精霊の下へ還る」って部分と重なるなあ。
精霊に関する祭事なんだから、精霊と魔力が何らかの反応を起こした結果の現象だったのかも。
「・・・んん? 精霊?」
ふと思い至って自分の胸を見下ろす。
このざわざわ・・・。せ―――。
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」
「・・・うひっ!」
思考に没頭して完全に油断していたところに地面が振るえるような大歓声が湧き上がって、私の体がビクッと竦む。