軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初めての新年 ⑱

「・・・遅くまで、ありがとうね」

馬の首をポンポンと撫でて深夜労働を労うとフンスと鼻息で応えてくれた。

私がポンポンしている間にルナリアはピーシーズを引き連れてお母様たちの下へと駆け寄っている。

手綱を受け取った兵士さんに私の馬が牽かれていき、フンスと鼻息も荒く身を翻した私もお母様たちのところへと行く。

「行くぞ」

「・・・うん」

私が来るのを待っていてくれたお母様たちが背中を向ける。

トコトコと追い付いてお母様に並び掛けると、お母様が追い付いてきた見下ろしてくる。

「さっきの騒ぎは何だったんだ?」

「・・・祝詞の紙をティールームに忘れてきたから、どうしようかと思って」

「ああ。そう言えば回収していたな」

レヴィアさんが回収しているところをお母様は見ていたらしい。

だからと言って、その紙を必要とする私自身が紙の存在を忘れていたのだから、誰からも紙の話題が出て来ることが無かったのは当然だ。

紙を回収したレヴィアさんは、と言えば、紙の存在を忘れているぐらいなのだから、私に渡してもまたどこかに置き忘れるか、必要なときに忘れてくるかの可能性が高そうだと保管していてくれたようだ。

お野菜に夢中で2時間も倉庫にいた私の行動を省みれば、レヴィアさんの判断は適切なものだったろう。

「・・・すっかり忘れてたから助かった」

「お前は何かに意識を奪われると周りが見えなくなるからな」

「・・・うう。ごめんなさい」

私の思考を読み取ったかのようなお母様のご指摘に、冷蔵庫並みに冷える倉庫でやらかしたばかりの私は返す言葉もない。

しかし、お婆様たちの目から見ると、私の欠点を指摘したお母様も人のことを言えたものでは無かったようだ。

「貴女もそうだったでしょうに」

「む。そ、そうだったかな」

最も被害に遭ったシェリアお婆様のツッコミにお母様が視線を逸らす。

セリーナお婆様が私に向いたので背筋を伸ばして待ち構える。

「フィオレも、もう少し自身の傾向を意識するようになさい」

「・・・はい」

良かった。「教育的指導」で済んだ。

これが「注意」だとお説教になり、「警告」だと正座でのお説教になる。

さらには「反則負け」だとどうなるのかは未体験だから分からないけど、きっと正座付きのお説教に加えて何らかの 罰則(ペナルティ) が科されるのだろう。

柔道か何かの競技みたいなルールだよね。

「皆様、お待ちしておりました」

供物台に近付くと私たちの接近に気付いたエルザさんたちに迎えられる。

エルザさんが木枠が倒れないように支えて、コーネリアさんが木枠の上辺に付いた金具に小さな鐘を吊り下げていたようだ。

コーネリアさんの足元から数歩離れた地面には、取っ手の付いた木桶が置かれていて、葉っぱの付いた木の枝が突っ込んである。

あの木桶、何に使うんだろう? お掃除?

吊り下げ作業に一段落ついたらしいエルザさんとコーネリアさんが、準備作業を中断して挨拶に来る。

お爺様たちに作業を続けるように言われたらしいコーネリアさんが一礼して作業に戻り、そのお爺様たちは警備の騎士様たちに呼ばれて連れ立って行った。

興味を引かれたらしいルナリアと付き添いのお父様は、供物台に供えられた供物を見て回っている。

お爺様たちの後ろ姿を見送ったセリーナお婆様がエルザさんに視線を戻す。

「任せっぱなしで悪いわね」

「何を仰いますか。好きでしていることですよ」

準備の手を止めて腰を折るエルザさんにセリーナお婆様が謝罪を口にする。

でも、謝罪を受けた側のエルザさんはフワリと笑って首を振った。

「今でも精霊様の存在を信じているのですね」

シェリアお婆様から投げ掛けられた言葉にエルザさんは困ったように微笑む。

そして、背後に聳える巨大な慰霊碑を肩越しに見上げた。

「どうでしょうか。ただ、せめて、あの人が精霊様の下へ迷わず還ってくれればと」

「・・・あの人・・・」

「私の夫です。随分と昔のことですよ」

寂しそうに笑うエルザさんは未亡人だったのか。

聞いてたっけ? それは、まあ良いや。

亡くなった旦那さんが精霊の下に還れるようにと祈祷師を務めている、ということなんだね。

孤児院の院長さんを務めているのも寂しいから、かな。

ウォーレス領は過去500年間も国防の最前線で、戦争が起これば誰かが死ぬ。

誰かが死ねば、遺された家族はどうなる?

今のエルザさんの姿は、有り得る未来の私の姿なのかも知れない。