軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初めての新年 ⑰

騒いでいる私たちを「何やってんだ?」って目で振り向いているお母様たちの視線が痛い!!

考えろ! 諦めるな!

何か良い手は思い付かない!?

頑張れ、私の灰色の脳細胞!!

「・・・今から領主館に―――、いやいや、それは」

「ま、間に合わないわよ!!」

「・・・うあーっ!! だよねー!!」

気付きたくない現実を的確にツッコまれて頭を抱える。

エルザさんからもう一度祝詞を教えて貰えれば―――、いやいやいや。コーネリアさんと二人で準備までしてくれているのに二度手間を掛けるわけには行かないでしょ。

どうにもならなそうな状況に馬上で悶えていたら、ポクポクと少しだけ早い蹄の音を響かせて並び掛けてきたレヴィアさんが、ピラリと紙を差し出してきた。

「フィオレ様。これのことですか?」

「「それだ―――ッ!!」」

ルナリアと二人で紙を指して叫ぶ。

レヴィアさんが差し出してくれたのは、私が頑張って書き取った祝詞の紙だった。

九死に一生を得た気分で苦笑しているレヴィアさんの手から紙を受け取る。

「ティールームに置き忘れていらっしゃったので回収しておきました」

「・・・ありがと―――ッ!!」

「よくやったわ! さすがね!」

感動に震える両手に紙を掴んで押し抱く。

ホッとした様子のルナリアも落ち着きを取り戻して反り返る。

あー、良かった。なんて心底安心していたら、いつの間にか城門を潜っていた。

「「「「「うおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」

「・・・うひっ!」

油断しているところに耳がバカになりそうな音量の歓声が降り注いで小さく身が竦む。

バクバクと過度に存在を主張する鼓動を抑えつつ、思わず瞑ってしまった目を恐る恐る開くと、予想を超える密度で押し掛けた人々で城門前が埋め尽くされていた。

満員電車並みの人垣が溢れ出さないように押し留めて、馬列が通る通路を確保しているのは領軍の兵士さんたちだ。

騎士様たちが兵士さんたちに指示を出していて、馬列の誘導も行っている。

城門を出た馬列は直ぐに街道を外れて目の前に 聳(そび) える慰霊碑へと向かう。

なにコレ・・・。

背の低い私でも鞍に座れば成人男性よりも高い目線になる。

なのに、見渡す限り人の頭しか見えない。

満天の星空の下でも、光魔法があちこちに浮いているせいで見通せる範囲は狭いだろう。

対光反射で視界が狭くなっている状況を差し引いても、視界の全てを人間が埋め尽くしている光景なんて、日本でも見たことがなかった。

レティアの町の平時人口は、西部地域からの移住民が増えたこともあって4万人ぐらいだったはずだけど、今、この場に集まっている人々の数は4万人どころじゃないと思う。

だって、警備上の理由で一部の立ち入り禁止区域を残してある以外、慰霊碑の前の結構広い原野が人間で埋まっているのに、街道がどこに有るかも分からないぐらいに密集した群衆は、街道がある辺りを越えた数百メートル先まで続いているように見えるんだよ。

年に2回、夏と冬に開催される同人誌即売会の入城待機列の動画を視たことがあるけど、あの高度に訓練され、機械的なまでに統制された、プロの羊の群れみたいな入城待機列を作っている人たちと較べても遜色無いほどの、密度と人数が大地を塗り潰している。

さすがに圧倒されたのか、ルナリアの口からも唖然とした声が漏れる。

「す、すごい人の数ね」

「・・・う、うん・・・」

忘れ物騒ぎで忘れてたけど、この大観衆の前で祝詞を上げるの?

いや。まあ、もちろん、軽く考えて安請け合いした私の自業自得なんだけど。

自分で撒いた種だし、今さら逃げ出せないんだから覚悟を決めるしか無い。

目を閉じて何度も深呼吸する。

やるなら全力でやる。そうだろ、私。

観衆が少なかろうが多かろうが、私のやるべきことに何の違いもない。集中しろ!

気持ちを落ち着けて瞼を開く。

「・・・ヨシ。やるぞ」

「うん! やるわよ!」

律儀に答えてくれるルナリアと二人、気合いを入れていると馬列が止まる。

祝詞の紙を無くさないようにクルクルと丸め、ドレスの裾が鞍に引っ掛かって捲れ上がらないように気を付けつつ下馬する。

周りを見回すと、供物らしい作物が山盛りにされた供物台の前にエルザさんとコーネリアさんの姿が有った。