作品タイトル不明
初めての新年 ⑯
護衛対象の領主一族が9人に対して、護衛はエゼリアさんたちとピーシーズとミセラさんたちに、エターナさんも追加して騎士が17人。
慰霊碑前にはエターナさんたちを捕縛したときの状況を参考にして、騎士団と領軍が治安維持に動員されているから安全性は確保されているらしい。
大した負担じゃないから私も魔力の手は出しておくけどね。
大切な私の家族には、誰にも危害は加えさせないよ。
どうせ誰にも見えないんだから、と、イソギンチャクみたいに8本の魔力の手を頭上に広げてウニョウニョさせつつ馬列は進む。
「おお・・・。ハインズ様とマルキオ様だ」
「ハロルド様とフレイア様も」
手持ちランプ(ランタン) を手にした領民たちが私たちの姿に気付いて足を止め、穏やかな表情で馬列に向かって一礼する。
そして、馬列が通り過ぎると領民たちも足を動かし始める。
守護者たるウォーレス家の人たちが、どれだけ領民たちから敬意を持たれているかがよく分かる光景で、ホッコリした。
滅多に見ることのない、というか、初めて見る深夜の町の景色を馬上から見回す。
ルナリアとお母様に連れられて、私がレティアの町に来て3ヶ月以上。
目まぐるしい勢いで、本当に色々なことが起こった。
もうすっかり見慣れたはずの景色だけど、真っ暗で人の気配が感じられないと全く違うどこかに迷い込んだみたいだ。
町の中には明かりが点いている建物がほとんどないから、もう寝静まっているんだろうね。
大通りを歩く人影も少ないけど、見掛ける領民たちも北門へ向かっているので、ご祈祷に参列しに行くのだろう。
年に一度の年越しイベントだものね。
普段ならみんな寝ている時間だろうし、それを思えば結構な参加率になるのかな?
夜型のご家庭が、まだ眠くないし近所でイベントやってるなら見に行くべー、んだばなー、んだんだー、みたいな感じかも知れない。
なんて感じで暢気に構えて鞍の上で揺られていたんだけど、北門が近付いてくるにつれて深夜の空気がざわついているというか、北門を目の前に見上げる頃には、実際にザワザワとざわめく人の気配が感じ取れてきた。
まさかとは思うけど・・・。
「・・・うえっ!?」
「どうしたの?」
あまりにも不穏な気配に、馬上から上体をそーっと横に乗り出して行く手を覗き込んでみれば、城門の高さ10メートルのカマボコ天井を抜けた向こう側に、みっちりと人が詰まっているのが見えてしまった。
生活魔法が使える人がそれぞれに“光”の魔法を浮かべているのだろうけど、頭上の光源に照らし出されている人々は、どう思い出してみても昨日の人混みより人口密度が高い。
町の中に人の気配が少なかった理由は寝静まっていたんじゃなくて、みんなこっちに集まってたからか!
どれだけ年越しイベントを楽しみにしてたんだよ!
そりゃあ娯楽が少ないのは分かるけど、集まりすぎでしょ!
あの衆人環視の中で、あの長い祝詞を朗読するの!?
みんなが寝静まってる夜中だし、精々、ご町内の集まり程度だろうと思っていたら町を挙げての一大イベント規模だった!
拙い! ぜんぜん心の準備が出来てないよ!
「なに? 何か有ったの?」
「・・・あわわわわわ」
油断していただけに精神的な動揺が大きい。
エライワーじゃないけどエライわーだったことに気付いてしまって、ルナリアの問いに答える語彙が迷子になった私は、進行方向を指さして非常事態の発生を訴えることしか出来ていない。
そこで大変なことを思い出す。
ハッ!! そう言えばカンペは!?
頑張って書き取ったのに、どこやったっけ!?
もしかしてティールームに置き忘れてきた!?
思い出そうとすればするほど置き忘れてきたようにしか思えない。
私の頭からサーッと血の気が引いていく。
「ちょっと、フィオレ!?」
「・・・あばばばばば」
挙動不審になった私の様子が只事ではなくなってきたことに気付いたルナリアが顔色を変えて、馬上から身を乗り出して私へ手を差し伸べてくる。
「しっかりするのよ! 傷は浅いわ!」
「・・・うぼぼぼぼぼ!」
戦争映画で致命傷を負った戦友を励ますシーンみたいなことを言うなあ。
けれども、事の重大さには気付いてくれないルナリアに、サッ、ササッ、サササッ! と、パントマイムか監督のサインみたいに身振り手振りで大変さを伝えようと頑張っていたら、ようやく思考が言葉の形になって喉の奥から転げ出てきた。
「・・・どどどどうしよう!? 祝詞を書いた紙を忘れてきたんだけど!!」
「ええっ!! ど、どうするの!?」
どうするって、どうすればいいの!?
お母様からは「動じるな」って言われているけど動じるよ!!
開き直る!? 無理だよ!!
叱られるとか、そんなのじゃなく、お婆様たちにも期待されてるのに裏切れない!!