作品タイトル不明
初めての新年 ⑮
どうやら私は2時間も農作物と戯れていたらしい。
2時間って考えた瞬間、肌寒さを感じてブルッと来た。
冷蔵庫の中に2時間も居れば、そりゃあ体も冷えるよね。
寒かっただろうに黙って付き合ってくれるんだもの、もー! ルナリアったら可愛いんだから!
「・・・ルナリアも寒かったよね。ゴメンね?」
私のお腹に巻き付いているルナリアの手を取ってみれば冷たくなっている。
可哀想に。ひんやりしている小さな手を取って、手の甲にハーっと息を吹きかけてさすさすと摩る。
結構、反省してるんだけど、ルナリアは太陽みたいにニッと笑う。
「良いわよ! 見てて面白かったし!」
「・・・お野菜が面白かったの?」
おおっ! ルナリアもお野菜そのものに興味を持ち始めたんだね! などと喜んだのも一瞬のことで、私の感動は、たった2秒間でひっくり返される。
「ううん! フィオレが!」
「・・・んん? 私?」
どういうこと?
私は届いた農作物を検品していただけなんだけど。
「だって、野菜を見つめて急に動かなくなったり、ニヤニヤし始めたり、変な踊りを踊り始めたりするんだもの!」
「・・・そ、そんなことしてたっけ?」
「してたわよ? だから見てて面白かったわ!」
生暖かい目で、にんまりと笑われて顔が熱くなってくる。
ううっ。恥ずかしいっ。
踊ってた、って何?
私は熱中すると周りが見えなくなるらしいから、私はやってない、なんて否定できる要素が何もない。
現行犯を摘発者に目撃されてしまった以上、目撃者を亡き者にするしか―――、いやいや。そうじゃなくって。
目撃された以上、周りが見えなくなっている間のことだもの、私の敗訴は確定だ。
ならば仕方ない。撤退だ!
「・・・そ、そっか。ルナリアが楽しかったのなら良かったよ」
「うん! じゃあ、行くわよ!」
私の手を握り返したルナリアが先に立って屋外へ向かう。
ヨシ! 我、撤退に成功セリ!
お母様を待たせるのも拙いし、遅刻するのはもっと拙い。
お婆様たちの目の前で約束したものを破ったりすれば、年越しお説教ライブどころか三が日耐久正座選手権が始まってしまう。
あれ? 何か忘れてる気がするなあ。
作物の確認以外にも、何か倉庫ですることが有ったように思うけど、何だっけ?
おっと。ルナリアに手を引かれて倉庫から出ると、“光”の魔法に照らされた厩舎前でお母様たちが待っていた。
お父様とお爺様たちとお婆様に、エゼリアさんとアンリカさんも揃っている。
ギリギリ、セーフ?
「む。ドレスか」
「スカート丈が短いから鞍に跨がるのに支障はないぞ」
「まあ、そうだが」
難しい顔をしたマルキオお爺様にお母様が反論している。
あれ? ドレスじゃ拙かったっぽい?
何がどう問題が有りそうなのかと考え始めたところへ、領軍の兵士さんが厩舎から馬の轡を取って牽き出してきた。
なるほど。これか。
スカートで馬に乗るのは「はしたない」と。
お婆様たちも乗馬服姿だからドレス姿は私たちだけだよ。
エゼリアさんたちやミセラさんたちもメイド服でスカートなんだけど、あのメイド服、見た目よりもスカートの 襞(フレア) が広い作りで、鞍に跨がってもスカートが捲れ上がらない不思議仕様なんだよ。
私たちのドレスの裾は不思議仕様じゃないから、鞍に跨がれば「はしたない」と言われる程度には捲れ上がるよね。
しまったな。乗馬服で構わないのだからドレスコードが有るようには思えないけど、衣服の確認まではしていなかった。
「今から着替えさせては間に合わん。外套も羽織っているし問題あるまい」
意見の食い違いを断ち切るようにハインズお爺様が首を振る。
「遅刻するよりもマシ」ってことなんだろうけど、これ、もしかして、着替えさせるつもりだったのが、私が農作物の木箱に貼り付いていたせいで着替える時間が無くなったのかな?
そもそも私は、そんなに長く倉庫に居るつもりは無かったんだよね。
何が届いたのかを確かるだけのつもりで倉庫に来たから、ナイフも魔石もルナリアの部屋に置いてきたけど大丈夫だろうか?
何かと戦う予定も無いんだし、大丈夫か。
みんなが馬に跨がってお爺様たちを先頭に領主館の敷地を出る。