作品タイトル不明
初めての新年 ⑭
今はそれよりもオリーブだ。
この実を取り扱った商人が知らなかったのか、何なのか、未加工の実のまま「流通」した経緯や事情は分からない。
後々(のちのち) 、興した産業を守るために、「流出」の経緯なら知っておいた方が良いかな?
情報管理というか、機密保持の観点を忘れてはいけない。
特許保護制度や知的財産の概念が成熟しつつあった地球でも産業スパイや盗用は絶えなかったし、領民の生活に直結するのだし、私も自分の意識を律する必要が有る。
今回、運良く現物を手に入れられて、降って湧いた有望な商材だものね。
商機は商機なんだけど、でも、私としては領内の需要を優先したいんだよ。
もちろん余剰生産分は輸出に回して儲けるつもりだけど。
じっと私の顔を見ているお母様に私の考えを伝える。
「・・・高値で輸出しても良いけど、それよりも先ず領内の需要も高いんじゃないかな」
「領内の需要というと?」
思い付いた計画を吐け、と。
「・・・良質な食用油でも有るんだけど。草木灰を溶かした水と混ぜて固めると石鹸が出来上がるから新しい産業になるし、安価な石鹸の普及は病気の予防になるよ。そのまま塗りつけるだけで 髪油(かみあぶら) になるしね。領内だけでも需要は有ると思うから、無理して輸出しようとしない方が 却(かえ) って高値で売れるかなあ」
あくまで、私はそう思うってだけなんだけど。
「髪油! 獣脂の髪油は臭いのよ!」
お父様は大好きだけど髪油は嫌いなルナリアの顔を見ながら伝えると、問題の一つが解決されると理解したルナリアは、当然、反応する。
そして、当然、お母様は私の主張を全体として反芻したようで、何度か小さく頷いた上でドライトマトを指した。
「なるほどな。もう片方の赤いヤツは何だ?」
「・・・“ポムダムル”って名前なんだけど、こっちは純粋に食材かな。ただ、お料理の幅が、とんでもなく広がるよ」
ほんとにトマトと醤油が無いだけで、お料理の味付けバリエーションが絶望的に減るんだよ。
お 出汁(だし) の類いも、ほぼ無いからね。
「お料理の幅が広がる」という説明だけで、お母様はピクリと反応した。
うんうん。同じような味付けのお料理ばかりで飽きてたんだねえ。
ご飯って人生の楽しみに占める割合が大きいからね。
この調子だと、お母様はサツマイモと唐辛子も喜ぶんじゃないかな。
「先ず、ハロルドと話すか?」
「・・・うん。その方が良いと思う」
こういう前世の知識がないと「素材そのもの」の価値判断基準が説明しにくい案件は、私の中身を知っているお父様と先に話しておく方が理解を得やすいだろうしね。
品種改良が必要っぽい甜菜は推しにくいけど、どうしよっかな?
おカネの臭いがしないのかと言えばプンプン臭ってくるんだけど、オリーブに較べれば見劣りするし、何でもかんでも手を出せるだけのリソースが残るか怪しいんだよね。
かと言って、オリーブは植え付けてから実を付けるまで4~5年も掛かるらしいから、その4~5年間の間を繋ぐ作物と考えれば甜菜を作付けする価値は有るんだろうか。
その辺りの中期計画も含めて相談したいなあ。
トウモロコシも、どうするか。
汎用性は有るし、何より個人的にはコーンスターチが欲しい。
コーンスターチもお料理の幅が広がるからね。
そう言えば、ビールの原料にもコーンスターチは入っていたような?
あれって増粘剤だったんだろうか。
ビールを自作しようと考えたことは無かったし、ネット掲示板で製造方法に話題が及ぶことなんて無かったからね。
ビールなあ・・・。
まだ10年近く私は飲めないとなると、ビールに対するモチベーションが上がらないんだよね。
だから、今のところホップを探そうってモチベーションも生まれてこない。
日本に居た頃は好きだったんだけどなあ。
キンキンに冷えた缶ビール。
6歳目前の5歳児が、缶ビールに思いを馳せていることなんて、さすがに想像もしていないで有ろうお母様が締めに掛かる。
「ヨシ。では、そろそろ出掛けるぞ」
「・・・えっ? もう、そんな時間?」
言うが早いか、お母様は背を向けて屋外へ向かう。
ん? そんなに差し迫ってる感じ?
どうなっているのかと困惑しながらお母様の背中を見送っていたら、私の背中にドーンと抱き付いてきたルナリアが答えをくれた。
「結構、長いこと野菜と睨めっこしてたわよ?」
「もう11時を回っていますよ」
「・・・あー。それはゴメン」
マキアナさんから具体的なツッコミが入った。
マジかー。