作品タイトル不明
初めての新年 ⑬
「これも再生栽培を?」
「・・・ううん。これは再生栽培じゃなく、種がたくさん採れるから、春になったら植え付けると良いよ。これ、たぶん果物だから」
メロンでもそうだけど、糖度が高いせいか熟れると足が早いんだよね。
王国は温暖な気候だから、余計、足が早いんじゃないかな。知らんけど。
「甘味ですか? それは良いですね。ぜひ、植え付けましょう」
「・・・さっきのパパドスっていう芋。あれも私が思ってる通りの品種なら甘味だよ」
「そうなんですか!?」
ミセラさんの食い付きが凄い。
女性なら、その方が多いけど、ミセラさんは甘いものに目がないタイプかな。
ふむふむ。初めてミセラさんのウィークポイントっぽいものが把握できてしまった。
今後、交渉が必要になった際に活かせるんじゃないだろうか。
ともあれ、一通りの新作物チェックは終わったな。
実に実りの多いひとときだった。
「・・・ヨシ。後の処理は明日以降にしよう」
「「「承知しました」」」
開けた木箱の片付けを終えてレヴィアさんとマーシュさんも集合している。
これらの作物が、ウォーレス領と新領地に豊かさをもたらすものになってくれれば良いんだけど。
ディディエさんとダーナさんとも相談して試験栽培も進めなきゃな。
片付けが終わるのを見届けて振り返れば、邪魔しないように黙って見守ってくれていたお母様たちが居る。
「良さそうな作物は有ったか?」
「・・・いくつかは、すごいのが有ったよ」
「ほう?」
まさか初っ端から 中(あた) りを引けるとは思っていなかったけど、それはお母様も同じだったようだ。
外套のポケットから見本用に取り分けていたオリーブの実とドライトマトを取り出す。
「・・・例えば、コレとコレ」
「果物か?」
「甘いの?」
私の手のひらに載った二つの作物をお母様とルナリアがまじまじと観察する。
両方とも見たことが無かったみたいだね。
西部地域、あるいは、西方諸国の作物になるのかな?
いや。西部地域は無いよね。
あの辺りの地域で広く栽培されていたのなら、お母様は向こうで見掛ける機会が有ったはずだ。
そのお母様が、見たことが無かった?
てことは、もっと西方―――、国外から何らかの手違いで入って来たんだろうか?
だったら、遠慮することは無いな。
国内からの流出でも遠慮するつもりは無いけど。
絶対に手放すつもりは無いし、私の手に渡った時点で諦めて貰うほかない。
「・・・果実では有るけど、両方とも果物では無いかな」
「と、いうと?」
首を傾げるお母様とルナリアに、真っ黒い果実を指先で指し示す。
私の中身を知っているミセラさんたちは良いとして、今から話す程度なら、エゼリアさんたちの前で話しても情報源を疑われることは無いんじゃないかな。
だって、みんな植物や農作物にそこまで詳しくないし、私の記憶うんぬんよりも実利の方に興味を示す人たちだ。
「・・・こっちは“エライワー”っていうらしいけど、実を搾ると油が採れるんだよ」
「植物油か」
お母様の目がキラリと光る。
おっ。お母様の嗅覚にも引っ掛かったみたい。
商売の勘も勝負勘と同じだからね。
いざ勝負事となれば、戦場を渡り歩いてきたお母様の勘も冴え渡る。
「・・・それも、高品質で、かなり良い効率で。この実が野菜として流通していたのだとしたら、搾油の原料としては広く知られていないのかも知れない。塩漬けにすれば食べられる実だしね」
「ふむ? 輸出で潤うか?」
大量に生産できれば、かなあ。
植物油も高値で流通しているのだから、きっと搾油を産業にしている地域は有るのだろう。
そういや、市場に流通している植物油の原料って確認したことが無かったな。
詳しく知ってそうな伝手と言えば間諜臭い行商人のハンスさん?
いやいや。ハンスさんの件はセリーナお婆様の手に渡ってるから、ハンスさんから情報を得るならセリーナお婆様に任せた方が良いのだろう。
クラリカさんたちの興味を誘導して情報を集めて貰うのも手だな。