作品タイトル不明
初めての新年 ⑫
農作物はできるだけ無駄なく食べてしまうもの、という先入観は日本に居た頃の私にも有った。
そして、ネットで再生栽培の記事に行き当たって、自宅マンションのベランダで挑んでみたことが有るんだよ。
結果的に成功したけど、農家でも無いのに再生栽培しても、時間が掛かるだけで、あんまり得した気分にはならなかった。
「・・・正確には、再生栽培って言うんだけどね。茎の部分を水に浸けておくと根と芽を出すことが有るんだよ」
「ほほう。いくらでも増やせそうですね」
ずいぶんと食い付くなあ、と、考えかけて、よくよく思い出してみれば、ロス家の委任領では作付け計画に失敗して小麦以外の作物に飢えてるんだった。
「・・・種が採れれば、その方が良いとは思うけどね」
「そういうものですか」
「・・・たぶん?」
効率から言うと、どうなんだろうね?
オリーブみたいな極端に発芽率の低い種子もあるけど、葉野菜の種子で発芽率が低い種類って聞いたことが無い。
ドングリなんかも発芽率が低いんだっけ?
高木系の種子は発芽率が低い傾向にあるんだろうか?
もちろん、私が無知なだけって可能性も有るけどね。
特に農業分野においては、農耕そのものに興味が無かった私の知識は非常に怪しい。
再生栽培だって、動画を見て「本当に出来るのか」に興味が湧いただけだったし。
露地栽培で普通に種から育てれば、キャベツなんかでも1株から4~5玉は収穫できるって動画を見た記憶が有るけど。
ブロッコリーの木箱を閉じて、次の木箱へと移動する。木箱の中を見下ろしているミセラさんの表情は渋い。
「こちらも少し傷んでそうですね」
「・・・どれ? おっと、これは」
葉が黒っぽく傷んできているけど、噂をすれば、恐らくキャベツだ。
玉が小さくて柔らかいから、中身がスッカスカで最適化されるまでは品種改良が進んでいないっぽいね。
これも再生栽培行きだなあ。
収穫されて王都まで運ばれて、そこで仕入れられてウォーレス領まで送られて来たわけだから、収穫から常温で2週間は経っているんだと思う。
そりゃあ傷むよ。
とはいえ、生命力の強い作物だから、傷んで腐敗が始まっている部分だけを切り落として廃棄すれば、再生栽培はイケるんじゃないだろうか。
「あっ。書き付けが入ってましたよ」
「・・・うん。んん? カンラ亜種? ブラーキ亜種じゃなかったんだ」
手渡された紙片の文字を読み取って首を捻る。
てっきり、キャベツが「ブラーキ亜種」だと思ってたんだけど、どういうこと?
いや。キャベツもケールからの品種改良で生まれたお野菜だから、「カンラ亜種」で間違ってはいないんだけどね。
じゃあ、「ブラーキ亜種」って何だろう?
それと、「シビィ亜種」か。
次、行こう。次。
「こちらは、先ほどの作物と似てますね?」
「・・・なるほど。確かに“亜種”だね」
次の木箱に入っていたのは、恐らく、カリフラワーだ。
蕾(つぼみ) の色は真っ赤だけど。
輸送中の振動で傷んだのか所々が黒く変色して腐敗を始めている。
「ブラーキのですか?」
「・・・そだよ。変異種になるのかな。ブラーキも、さっきのカンラ亜種も、これの親戚なんだよ」
私の説明にミセラさんは真剣な表情で頷く。
本当にロス領は農業的に危機的状況だったっぽいね。
「では、これも再生栽培ができるのですね」
「・・・さっきのカンラ亜種もね」
「良いですね。ぜひ、やりましょう」
ミセラさんもポジティブだよね。
賢いし、よく気が付くし、働き者だし、明るいし、良いお嫁さんになると思う。
「・・・残るは、シビィ亜種だね」
「これですかね? 随分と小さい上に、これも傷んでいるようですが」
「・・・メロン? いや。マクワウリかな?」
最後の木箱に入っていたのは、熟れたのか、傷んだのか、崩壊寸前で甘い匂いを漂わせている瓜っぽい作物だった。
サイズ的にはラグビーボールぐらいで、シビィ―――、トウガンより二回りは小さい。
ただ、私としては、メロンでもマクワウリでもお野菜ではなく果物扱いなんだよね。
皮の色が赤紫色っぽいのも慣れれば違和感も仕事をしなくなるだろう。
「色ガー!」なんて言ったら、アケビなんて紫色だよ? ヘーキ、ヘーキ。