作品タイトル不明
初めての新年 ⑪
「・・・まあ、暖かくなったら植えてみよう」
さっさと棚上げして次の麻袋を覗き込む。
んん? 干し野菜?
それとも、ドライフルーツ?
一回り大きな干し柿みたいな形状の果実が干からびてシワクチャのペッタンコになっている。
「・・・赤い実、だよね?」
もしかして、トマト?
メモ書きの名前は「ポムダムル」。
こいつがポムさんか。
もしもトマトだとすれば、かなり野生種に近い品種じゃないかな。
トマトはナス科で、南米原産の乾燥気候を好む植物だったはず。
王国の気候も乾燥気味だし、イタリアみたいに植生は合うんじゃないだろうか。
これが本当にトマトだったら、挽き肉とトマトでミートソースが作れるよ。
唐辛子も有るからアラビアータも作れるね。
いや。トマトソース?
ハッ! わざわざパスタを打たなくてもピザを焼く方が簡単じゃん!!
小麦粉の生地を捏ねるのはパンと同じなんだから、みんなすぐに慣れるはず!!
トマトソースは汎用性が高いから、めちゃくちゃ大量生産しなきゃ!!
見本でシワクチャな実を1個ポケットに忍ばせる。
「フィオレ様? また涎が」
「・・・あっ。サーセン」
また手巾で顔を拭われた。
落ち着け、私。まだまだ確認作業中だぞ。
軽く深呼吸して倉庫内の冷たい空気で肺を満たし、心を鎮める。
麻袋の木箱は、これで終わりかな?
ミセラさんが開けてスタンバイしている木箱を覗きに行く。
こっちの木箱には1種類の根菜がパンパンに詰め込まれていた。
「芋のようですね?」
「・・・芋だねえ」
ヒョロヒョロと細いけど、たぶん、サツマイモっぽい?
「っぽい」のは皮の色が緑色だからだ。
でも、形状から見るにサツマイモなんじゃないかな。
メモの名前は「パパドス」か。
種芋を残す必要は有るけど、きっと焼いてみれば分かるよ。
サツマイモじゃなくても芋類は良質な炭水化物の塊で、荒れ地でも育つし日持ちする。
備蓄食料として優秀だし、もしも、サツマイモだったら貴重な甘味にも成り得る。
これも大量生産候補どすえ。
ヨーシ、次の木箱に行くか。
ん? また麻袋?
ミセラさんと一緒に袋の中を覗き込む。
「何かの種、ですかね?」
「・・・種といえば、種かな」
乾燥されて軸から外されているけど、トウモロコシじゃないかな? こっちも緑色だけど。
採れたてのトウモロコシでも緑色だと、あんまり美味しそうには見えないかも。
私の先入観かなあ。まあ、育ててみれば分かるよ。
これで謎の名前は制覇したよね?
あ。ブラッキーさんが、まだ未確認か。
その後は「亜種」シリーズだ。
「これは・・・、傷んでいるんですかね?」
「・・・そうみたいだね」
勿体ない気持ちは有るけど、物流が未発達な世界だからウォーレス領に届くまでに傷んでしまう可能性は織り込み済みだった。
割り切らなきゃ、と、考えていると、ミセラさんが木箱の底の方へと手を突っ込んだ。
「書き付けが入っていますね」
「・・・ありがと」
メモの名前は「ブラーキ」。
黄色くなって傷み始めているけど、形状から見てブロッコリーだよね。
ケールから品種改良されたアブラナ科の植物で、キャベツの親戚だ。
食用になるモコモコした見た目の、あの緑色の脳ミソみたいな半球状の塊は花芽の集合体で、一株から何度も収穫できる。
待てよ? 一覧表には「ブラーキ亜種」って有ったよね?
コレの亜種って言うなら、アレのことじゃないかな?
「これは廃棄でしょうか」
「・・・いやいや。待って。苗に戻せないか、やってみるから」
「作物を苗に戻せるんですか?」
ミセラさんが目を丸くする。