作品タイトル不明
初めての新年 ⑧
広場の突き当たりに面した障害物のない壁面に、大きな木製の2枚扉が貼り付いている。
戦略上にも重要な食料倉庫だけ有って、お弁当箱みたいにデッカい錠前が扉と扉の境目にブラ下がっている。
小さな木札が付いたゴツい鍵を取り出して、マーシュさんがガシャコンと解錠した。
「では、開きますね。冷えるので足元にも気を付けてください」
「・・・お願いします!」
ワクワク持続中でテカテカな私が元気に返事をすると、扉に取り付いたマーシュさんとレヴィアさんが凹みに指先を引っ掛けて引く。
「・・・お、おお?」
観音開きかと思ったら、引き戸かい!
ゴロゴロと重い音を響かせて、2枚の扉の間に1メートルほどの隙間が開いた。
ババーンと開け放たないのは倉庫内の冷気を逃がさないためだろうね。
1メートルも隙間が有れば人一人が通り抜けるには十分だしね。
マーシュさんたちが先に倉庫内へ入って他に人の気配が無いことを探り、ミセラさんの後に続いて倉庫内へ足を踏み入れる。
氷点下ってことは無いだろうけど、1桁ぐらいかな?
倉庫内は本当に冷蔵庫のような気温だ。
私に続いて入って来たルナリアもブルッと体を震わせた。
「本当に、ちょっと寒いわね!」
「入口付近が凍結していることは無いと思いますが、足元が凍っていないかは注意してくださいね」
「分かったわ!」
注意された通りにルナリアは弾むような足取りだけど、ちゃんと足元を見ながら歩いている。
こう何度も警告するってことは、本当に床―――、というか、土間が凍結して滑ることが有るのだろう。
入口を入って壁に背中を付けている棚の角を曲がれば、真ん中に広い通路が有って両脇の壁に背の高い棚がズラーッと並んでいた。
それぞれの棚は奥行きが数メートルは有るようで、一段一段の棚には木箱のまま物資が詰め込まれている。
意外とキッチリ整理整頓されて整然と木箱が並んでいる様は、この倉庫もまた軍事施設の一部なのだと感じさせるものだった。
「こちらです」
「・・・おおっ。これが!?」
マーシュさんが示したのは、整理前なのか広い通路の真ん中にドデンと積み上げられた木箱たちだった。
ルナリアや私では二人掛かりでも移動できそうにないサイズの木箱が、数にして20個近く。
恐らく荷馬車1台分を満載にするぐらい積み上げられている。
手近な木箱の上蓋をいくつか開けたレヴィアさんが、木箱の中から紙を取り出した。
「これが一覧のようですね」
「・・・ありがと」
荷物の受け取り時に検品が行われたのか、封をされていない木箱の中身が箇条書きでリスト化されているようだ。
この字、クラリカさんっぽいね。
なになに?
「・・・ラデス亜種、ラデス亜種、カンラ亜種、シビィ亜種、ブラーキ亜種、んん? ブラーキ? ポムダムル? コムム? ナンバ? ペア? ベースカ? パパドス? エライワー?」
カンラって、ケールだったよね。
アブラナ科の多年草でキャベツの原種に近い品種だったはず。
その亜種がいくつも?
ラデスはダイコンでアブラナ科の一年草。
こっちの世界のダイコンは原種に近いのか、日本で一般的だったダイコンよりも少し貧相で筋張ってる。
カンラもラデスも「亜種」って書いてるということは、固有名詞が分からなかったか、「変異種」として扱われていて固有名詞が付いてないのかも?
シビィはトウガンだったけど、その亜種?
ブラッキーさん?
ビーターかな?
いやいや、ブラーキとその亜種の他、固有名詞が羅列されている作物なんて、名前からは何の作物に近いものなのか想像も付かないよ。
ポムダムルにコムムって何?
コムムしてますか?
難波ペアに、べーっすか?
パパどすえー、に、エライわー?
京都人と大阪人かな?
これは困った。
でも、クラリカさんとメイリスさんが、こんなに雑な仕事をするかなあ。
王都の状況は分からないけど、あの二人なら、もうちょっとヒントのようなものが有ってもおかしくない。