作品タイトル不明
初めての新年 ⑨
「レヴィアさん。他にも何か書き付けは入ってない?」
「しばし、お待ちを」
レヴィアさんとマーシュさんとミセラさんの三人が、手分けして他の木箱もフタを開け始める。
お母様とルナリアも私の後ろに付いてきているけど、よく分からない分野だからか傍観する姿勢のようだ。
「ああ。全部では無さそうですが、いくつかは書き付けが同梱されていますね」
「・・・見せてくれる?」
「こちらです」
ミセラさんに手招きされて木箱のところへ行ってみれば、萎れて黄色くなりかけているお野菜の隙間に紙片が埋もれ掛かっている。
メモには「ラデス亜種」とだけ書かれていて、そのメモの下に有るのはダイコンよりも丸っこくて短いフォルムの根菜。
これ、 蕪(かぶら) だよね。
もう一つ、同じように傷みが進んで葉が黄色くなってきているお野菜が有って、そっちはアブラナ科の葉じゃない。
蕪と似ような形の丸っこい根菜だけど、こっちの根は土の色というか、濃い茶色をしている。
ダイコン? にしては根が太っていて、少し 歪(いびつ) でゴツゴツ感がある。
・・・この葉っぱの形、もしかして?
「・・・レヴィアさん。ナイフ持ってる?」
「有りますよ?」
答えるなり、レヴィアさんの手に、手品のように両刃のナイフが現れた。
今、どこからナイフが出てきたんだろう?
目の前で見てたのに、ぜんぜん分からなかったよ。
背筋が寒くなるような戦慄を覚えながらお願いする。
「・・・こ、この根の先を、ちょっと切ってくれる?」
「先っぽで良いですか?」
「・・・うん」
手渡された根っこの先っぽの切り口を舐めてみる。
いくらか土が付いたままだけど、そんなものは気にしない。
「・・・なるほど」
鼻の奥に抜ける青臭さと同時に舌に甘味を感じる。
水臭いというか、かなり甘味が弱いけど、 甜菜(テンサイ) っぽいな。
産業革命の頃に品種改良が進む前の糖度は数十分の1ぐらいだったんだっけ?
甘味を強める品種改良が必要っぽいから、すぐにおカネになりそうには無いけど将来性を感じずには居られない。
だって、甜菜って言えば水飴の原料で、要は砂糖だよ。
メタな異世界テンプレ作物だよね。
メモには「ラデス亜種」って書いてあるけど、これは間違いだ。
甜菜はアブラナ科の植物じゃない。
ビートなんかと同じ種類の、何だっけ? フダンソウ? だったか何かの仲間のはず。
まあ良いや。 細々(ほそぼそ) と糖度を高める品種改良を進めて貰うとしよう。
「・・・他に書き付けは有る?」
「フィオレ様。こちらに」
マーシュさんが開けている木箱には麻袋がいくつも入っていて、それぞれの麻袋の口を開けるとメモが書かれた紙片が入っていた。
「・・・これがコムムか」
ちょっと大きいけど、唐辛子っぽいな。
色も鮮やかなオレンジ色だけど。
こっちは作物の一つを手に取って、干からびつつ有る実の先っぽを指先で千切ってみる。
くんくんと嗅いでみても強い臭いは無し。
切れ端を口に含んで噛んでみる。
「・・・うにゅっ。辛っ」
「大丈夫ですか!?」
「・・・大丈夫、大丈夫。たぶん、辛味の強いお野菜なんだよ」
このカーっと燃えるような辛味は間違いなく唐辛子だ。
異世界成分的にカプサイシンかどうか分からないけど辛味は十分。
うんうん。ニンニクもベーコンも有るし、パスタを打てばペペロンチーノモドキは作れるな。
「こちらの袋にも書き付けが」
「・・・どれどれ?」
こっちは、どう見ても落花生だよね?
メモ書きは「ペア」。
なるほど、落花生だもんね。
地中で育つ 房(ふさ) に 二つ(ペア) の種子ができる、要するにピーナッツだ。
そのまま食用にしても良いけど、大量栽培すればピーナッツオイルが絞れるかも。
似ていても同一品種とは限らないから、増やしてみて 圧搾(あっさく) してみるか。
次の麻袋に入っているのは何かの果実かな?
熟しているのか真っ黒い実が袋一杯に詰まっている。
熟して見えるわりに、あんまり甘い匂いはしないね。
アボカドだって熟した実は真っ黒だから、色が黒いことは珍しく無い。
手に取ってみると微妙に柔らかくて、やっぱり熟しているようだ。
この実、どこかで似たような実を見た記憶が有るよね?
果実の形状は縦長に少し延ばしたような球形で、大きさは直径4センチメートルぐらい。
メモ書きの文字を読み取る。