作品タイトル不明
城壁移設 ⑱
立てた人差し指を顎先に添えるお母様そっくりな仕草で観察の目を向けてきているシェリアお婆様と、目を細めて笑っているセリーナお婆様だ。
いつもの 嗜虐的(しぎゃくてき) に笑う猫のような笑みでは無いから、脂汗が噴き出るような危機感は感じない。
「理屈を聞いていても、本当に飛んでいるようにしか見えませんね」
「そうね。でも、見ていて面白いわ」
ん? もしかして、珍獣扱いで楽しまれてる?
近いうちに直孫も同類になると思うけど、良いんだろうか。
「魔法術式は自由なもの、ですからね」
「フレイアも、大概、自由だったけど、フィオレは文字通り飛び抜けてるわね」
「・・・ありがとうございます!」
おお! 今度こそは絶対に褒められたはず!
お母様と一緒だよ!
お婆様たちが口元を隠して、お上品、かつ、楽しそうに笑う。
「まあ、事故を起こさない程度で抑えておきなさい」
「・・・はいっ」
あんま調子乗んなよ? と、釘を刺されたんだと思うけど、嬉しいものは嬉しい。
叱られる気配は無いと見て取ったルナリアも嬉しそうだ。
まだ埋まっていない穴ぼこの側をビシっと指す。
「フィオレ! 続きをやるわよ!」
「・・・じゃあ、私たちは残りの穴を埋めて、東側の城壁分も土を作ってきます」
ルナリアに頷き返してお爺様たちに挨拶すると、お爺様たちも頷き返してくれる。
馬首を向けた方向から察するに、西側の城壁建設現場を視察しに行くのかな?
「うむ。無理はせぬようにな」
「「はい!」」
手を振って見送ってくれるお婆様たちにも手を振り返して作業を再開する。
少し高度を上げてルナリアと二人して魔力の手を伸ばし、地面に突っ込んでのコピペ作業だ。
複製された土がモコモコと盛り上がって、モグラの通り道を形成しながら東側のゴールを目指す。
爆速埋め立て工事を進めつつ東部戦線に到着してみれば、完全に目が笑っているノイエラさんが手を振りながら待ち受けていた。
土魔法を得意としてるノイエラさんが指揮を執っているだけ有って、早くも穴ぼこの底に城壁の一部が積み上げられつつ有るようだ。
迎え入れてくれたノイエラさんがニヨニヨしているのは、爆速コピペされた土のモコモコだろうか?
それとも私たちが飛んできたように見えたことだろうか?
「面白いことをしてますね?」
「・・・いやあ。それほどでも」
どっちのことか分からないから、へらへら笑って頭を掻くポーズをしつつ、日本産の玉虫さんを再召還してみた。
「それ、どうやって飛んでるんですか?」
「足」の方だったか。玉虫さん初勝利だよ。
お父様やお爺様たちにも教える約束だから、これは研修会の開催かな?
「・・・魔力の手だよ。後でエレーナさんに教える約束をしたから、ノイエラさんも一緒にどう?」
「良いですね。エレーナと一緒に教わらせていただきます。―――、ところで、随分と土の生成速度が速いようですが、何かコツでも?」
土魔法のスペシャリストとしては、モコモコも看過できない様子。
そりゃあそうだよね。
ノイエラさんは防御魔法のスペシャリストでも有るから、積み上げるだけで物理的障壁になる土の生成速度は、ノイエラさんの戦術を根底から変え得るんだと思う。
私としても、ノイエラさんの技術向上はお母様の安全に直結するから、是非とも情報をフィードバックしたい。
「・・・後で教えるよ。先に穴を埋めちゃって良い?」
「ええ。もうドーンと埋めっちゃってください」
「・・・分かったー」
ノイエラさんと私の会話を聞いていたルナリアが、私の肩越しに身を乗り出して大きな声を上げる。
「あなたたち! 埋まっちゃうわよ!」
「退避―――ッ!!」
私たちの遣り取りをボーッと見上げていた領軍の魔法術師さんたちが、ルナリアの声にハッとする。
みんなが大慌てでわらわらと穴ぼこから退避し終わったのを見届けて、魔力をドバーっと注ぎ込む。
穴ぼこの底から壁からモコモコと湧きだした土が、あっという間に穴を埋めて盛り上がる。
「「「「「おおお―――ッ!!」」」」」
大きな魔力消費から解放された魔法術師さんたちも歓声を上げて盛り上がった。
ヨシ。これで作業開始前の約束は果たしたよ。
涙ながらに抱き合ってまで喜ぶのは大袈裟な気もするけど。
土がモコモコと盛り上がって行く様をジーっと観察していたノイエラさんが首を傾げた。