作品タイトル不明
城壁移設 ⑯
「土が二つ~。土が二つ~。―――、あっ!」
何かの呪文みたいに唸っていたルナリアが大きな声を上げると同時に、地面がモコッと盛り上がった。
どうやら成功したみたい。
私が認識している領域内にルナリアの魔力を纏った土が増えたことが感じ取れた。
思ったよりも早かったな。
「・・・おおっ。やったじゃん」
「すごい! わたしにも出来たわ!」
「・・・ふぐっ!?」
ちょ、チョーク、チョーク!
レフェリー、カモーン!!
抱き付いてきたルナリアの腕に思い切り首を締め上げられて、ちょっと苦しい。
再びのタップで腕の力が緩んだので質問を絞り出す。
「・・・ま、魔力消費はどうだった?」
「魔力? そんなに苦しくなかったわね」
自分の内側へ意識を向けたのか、ルナリアがペッタンコな胸を見下ろす。
上手く魔石の魔力に負担を肩代わりさせることもできたっぽいね。
ヨシヨシ。いい感じじゃん。
「・・・そっか。まだ頑張れそう?」
「もちろん頑張るわ!」
期待通りの返事に私の口元も綻ぶ。
私の嬉しい気持ちが伝わったのか、胸の中で魔力がムズムズしている。
私もペッタンコな自分の胸を見下ろす。
そっかそっか。あなたも一緒に頑張ってくれるんだね。
一人で頑張っているのではないことが感じ取れて、さらにヤル気が出て来ちゃったよ。
「・・・んじゃあ、オナシャス!」
「おな?」
「・・・良いから良いから」
魔力の手を2本追加して、ズボッと地面に突っ込む。
浸透しているルナリアの魔力はそんなに範囲が広くないから、壁とか隅っことかルナリアの魔力に干渉しない範囲に私の魔力を浸透させる。
土を掌握したら、3本の「手」それぞれで掌握した土を魔力に転写して複製する。
ルナリアの魔力の手と合わせて4ヶ所でモコモコモコモコと土が増殖し、穴ぼこの底から盛り上がってきた土で、爆速で穴が埋まっていく。
これ、収穫済みの農作物でも使えないかな?
農作物をコピペできたらメチャクチャ捗るんだけど。
後で試してみるしか無いな!
いちいち「足」を止めるのではなく、ゆっくりと「足」を進めながら、こんもりと土が溢れ出す程度で増殖箇所を移動させていく。
魔力の「足」は長くて一歩の歩幅が大きいから、ゆっくりのつもりでも移動速度は人間の駆け足よりも早いぐらいかな?
大人の足で早めのジョギングぐらいのペースかも。
「・・・魔石の魔力が弱ってきたら言ってね。魔石はまだ有るから」
「りょうかーい!」
自分の魔法が役に立っているのが嬉しいのか、ルナリアの返事もご機嫌だね。
魔力の手に慣れれば本数を増やせるのは実証済みだから、ルナリアが単独飛行記録を樹立する日も遠くないんじゃないかな。
来たるべき単独飛行成功記念日のために私がルナリアにしてあげられることと言えば、高高度へ 招待(アブダクション) して高さに慣れさせてあげることだろうか?
慣れで魔法が進歩するなら、人間も慣れれば進歩するはずだ。
高高度から成層圏を超えるまで進歩すれば、進歩的スペースノイドに進化したルナリアも壮大な宇宙観を理解して”蒼焔”をマスター出来る日が来るかも知れない。
よしんば”蒼焔”をマスター出来なかったとしても、保守的 対空ルナリアミサイル(SALM) が進歩的 大陸間弾道ルナリア(ICBL) に―――。
でも、ちょっと待てよ?
ルナリアを大気圏外にまで連れて行くってことは、私も行くことになるのか。
寒いのは嫌だなあ。
止めとこ。
「もうすぐ終わりね!」
「・・・そうだねえ」
バカなことを考えている間にも、順調に穴ぼこは埋まって、モコモコと土が盛り上がって連なったデッカいモグラの通り道みたいになっている。
ジョギングペースで2キロメートルなんて、ほんの数分間だよ。
ゴール地点では、工作部隊と輜重部隊の魔法術師さんたちが、空を飛んでいるように見える私たちを驚愕しながらも歓迎して迎え入れてくれた。
私の背中で反り返っているルナリアと一緒に城壁の継ぎ足しに使う石材分の土を山積みにする。
「ありがとうございます! めちゃくちゃ助かりました!」
土を生み出すための魔力消費に苦しんでいた魔法術師さんたちが、涙ながらに感謝の祈りを捧げてきた。
くすりと笑いが漏れる。
大袈裟だなあ。でも、大袈裟なんだけど、大袈裟じゃないんだよなあ、これが。
そのぐらい、無から有を生み出すための魔力消費量は重たいんだよ。
私たちだって、魔石の魔力を使えなかったら、領軍の魔法術師さんたちと一緒に魔力枯渇でひっくり返っていたはずだもの。