作品タイトル不明
城壁移設 ⑦
「領軍の魔法術師が城壁の切り離し作業に取り掛かる。お前の担当は城壁の移動作業だ」
「・・・普通は、どうやって移動させるんですか?」
郷に入れば郷に従えで、通常の作業手順が有るなら、則っておいた方が混乱が起こらないし、不測の事故を避けやすい。
だから、確認は大事。
「いくつかの区間に区切って城壁を切り離し、術式に加えて馬で曳かせるのだ」
「・・・馬に曳かせる・・・」
巨大な丸太材を馬に牽かせている様子は見ていたから驚きは無い。
拡張方向になる移動先へ目を遣れば、芽を出したばかりなのだろう冬撒きの野菜がチラホラ見える。
あれが補償交渉済みと聞いた畑だよね。
馬で踏み荒らして芽を出している野菜を無駄にするのか。
うーむ・・・。
踏み荒らす必要、ある?
提案してみるか。
「・・・お爺様。あの畑なのですが、城壁内になっても作物は採れますよね?」
「あの畑か? 城壁内になっても暫くは畑のままになるだろうな」
そのうち潰すかも、って意味だろうけど、直近では馬に踏み荒らされた後の畑を耕し直すのか。
仕方ないんだろうけど二度手間じゃん。
植え付けた野菜の種だって大事な資産だし。
私の頭の中は爆発的に増殖した勿体ない精神で埋め尽くされ始めていて、理屈を考える隙間も無くなりつつ有る。
これはいけない。
今すぐ勿体ない精神を放出して内圧を下げないと、私の頭蓋骨が内側から爆発して勿体ないお化けが王国を侵略してしまう。
「・・・でしたら、畑を荒らさずに済むように城壁を移動させてみようかと思うのですが、やってみていいですか?」
「何?」
「待て。何の話をしている?」
目を丸くしたマルキオお爺様が首を傾げ、私の提案を制止しに割り込みを掛けてきたのはハインズお爺様だ。
「・・・芽を出した作物が勿体ないな、と」
「畑を踏み荒らさずに城壁を移動させたいと言い出してな」
「むう。勿体ない、か」
本音をぶつけた私をマルキオお爺様が補足する。
困ったように唸ったハインズお爺様に助け船を入れるように矛先を変えたのは、私の思い付きに耐性を獲得しつつ有るお父様だ。
「出来るのか?」
「・・・出来るんじゃないかな、と。一昨日、あの慰霊碑を建てた後に、向きを変えましたよね?」
「変えておったな」
ご自分の目で現場を目撃したお爺様たちが揃って頷く。
出来るか出来ないかで言えば、出来るという感覚が有る。
私にはリニア魔法が有るからね。
お爺様たちもリニア魔法をすでに目撃している。
「・・・あれ、浮いてたんですよ?」
「は!?」
「浮いていただと? あの巨大な慰霊碑がか」
だよねえ。
お爺様たちが驚きの声を上げて、お父様は達観した目で宙を見上げている。
磁力による反発をイメージして浮かせた物だからか、そんなに魔力消費量も大きくなかったんだよね。
魔力消費量の問題は、検証を続けてみないと解明できないだろうけど。
そう言えば、リニア魔法の説明は、訊かれなかったから、しなかったな。
誰か“雷石”を持ってないかな?
用も無いのに持ってないよね。
良いだろう。ここは詳細を省いてゴリ押しだ。
細けえこたあ良いんだよ。
どうせ訊かれるだろうから詳しい説明は後ですれば良いや。
「・・・はい。ほんの数センチメテル程度ですが、宙に浮かせていました」
「同じことが城壁でも出来ると?」
マルキオお爺様の確認に大きく頷く。
条件付きだけど私は可能だと確信を持っている。
その「条件」も伝えておくかな。
「・・・認識さえ出来れば、ですが。兵士さんたちに協力して貰えれば出来ると思います」
「協力というのは?」
ここで子供の言うことだと頭ごなしに否定せず、ちゃんと聞いてくれるのがウォーレス家系の人たちだ。
地球でも「軍人は現実家」だと言われていたけど、政治家のような夢想家ではなく、実務と実利に振り切っているからこその行動様式なんだろうね。
後方でふんぞり返っている政治家と違って軍人は最前線で自分の命を賭ける。
だから軍人という生き物は不確実性だらけの夢を語らないし、 実戦証明(コンバットプルーフ) された技術こそを信じる。
自分に都合のいい夢想を軍人が語った国の末路は昔の日本が証明して見せたよね。
他方、軍事力お化けの某国なんて70年前の戦略爆撃機を近代化改修して100年を超えるまで使い続ける気だし、100年以上前に開発された重機関銃を今も最前線で使い続けている。
言い方を変えれば、軍人の思考回路は有用性と確実性が証明された技術を否定しない。
確実性の有る技術は単なる「手駒」であって、有用な手駒の「運用」こそが軍人の仕事だからだ。