軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

城壁移設 ⑧

領主の立場は軍人と政治家を兼ねているけど、立場はTPOに合わせて使い分けるものだ。

軍人の立場で判断すべき実務の場では、お爺様たちなら実務の判断をすると私は信じている。

私の中の勿体ないお化けを成仏させるために、成算は有るのだと私は言い募る。

「・・・この城壁の長さって4キロメテルぐらいですよね? 真ん中辺りで作業すれば両側に2キロメテルずつですから、城壁の端から端まで探知範囲に入れることは出来ると思います。城壁の 角(かど) っこに兵士さんに立っていて貰えれば目印になりますし、目印が有れば、遠くて見えていなくても把握はできます」

私の言い分に、お爺様たちが目を丸くする。

「この城壁を一度に浮かせて移動させるというのか?」

「・・・把握さえできれば可能だと思いますよ? ああ、あと、移設予定地点にも兵士さんたちに立っていて欲しいです」

私の視力では城壁の端から端までを視認することは出来ないだろうけど、探知範囲内なら魔力の違いで私は直接的に認識できる。

城壁の端っこで目印に立ってくれる兵士さんたちの存在を魔力によって認識できるなら、それは視覚では認識できていない城壁でも認識できるということに他ならない。

ゴール地点の兵士さんの反応と端っこの兵士さんの反応が一致すればゴールしたってことなんだから、非常に分かりやすいはずだ。

「ううむ・・・」

じっと目上げると困ったようにお爺様たちの眉尻が下がる。

何とも言いようのない表情で唸るお爺様たちを決断させたのはお母様だ。

「一度、させて見れば良いだろう。出来なければ、元のやり方に戻せばいい」

「ま。それもそうだな」

「それで良いのではないかしら」

お父様がお母様に同調して、お婆様たちも頷いている。

このチャレンジを妨げない寛容な家風、すごいよね。

背中を押されたお爺様たちが、ついに頷く。

「良かろう。やってみよ」

「無理はするでないぞ」

「・・・はいっ」

城壁の切り離しを行うのは、建築物の構造に詳しい工作部隊の魔法術師さんたちらしい。

厚みが15メートルも有る城壁は、中身まで石や土が詰まっているわけじゃなくて、奥行きを利用して、武器や資材を保管しておく倉庫や、屋上の歩廊へ上がる階段や、警戒任務中の兵士さんたちの休憩所なんかも内部に有るらしい。

当然、全部が空っぽというわけじゃなくて、外側から見ても判別は付かないけど、部分、部分に、空洞になっている箇所が有るってことで、その城壁の構造が薄い部分を土魔法で切り離すそうだ。

本来の計画では、輜重部隊の魔法術師さんたちが切り離し後の城壁をツルツル魔法で移動する計画だったのだけど、移動作業を私が行うのならと、輜重部隊の魔法術師さんたちは工作部隊の魔法術師さんたちと一緒になって、空間が空いた部分の継ぎ足し作業を行うことになった。

「・・・継ぎ足し作業って、どうやるの?」

「土術式で土を生み出して、石材に固めて城壁の形に立ち上げるんですよ」

「・・・うはあ。キツそう」

足りない土を魔力で補填するのかあ。

魔法術師さんは20人以上いるけど、めちゃくちゃ大変だと思う。

初めてシェリアお婆様の魔法を見せて貰ったときに自前の魔力で石の杭を作ったのもキツかったし、慰霊碑の体積分の土を魔力で補填した私には、その大変さが実感できてしまった。

うへえ、って顔になった私の表情に、工作部隊の魔法術師さんが苦笑する。

「移動や建設よりもキツいのは土を生み出す術式ですね」

「・・・分かる! 魔力消費がキツいよね!」

「そうなんですよ!」

そうだそうだと他に人たちからも同意の声が上がる。

魔法術師さんたちと意気投合してしまった。

やってみないと、あのキツさは分からないし、やってみれば骨身に沁みて分かる。

それが、魔力で物質を生み出す大変さ。

「・・・移動が終わったら、私も手伝うよ」

「ええ? フィオレ様はお一人で移動作業をするんですからお疲れになるでしょう」

「・・・魔力制御―――、というか、認識さえ出来れば、そこまで疲れないと思うよ。それよりも、さっさと年末最後の大仕事を終わらせちゃおう」

私が言い放った言葉に魔法術師さんたちが顔を見合わせる。

「「「「「はい!」」」」」

うん。イイ返事だ。

ピィイイイイ! と、笛の音が聞こえて、東と西の二手に分かれた兵士さんたちが城壁内外の配置場所へと散っていく。

笛を吹き鳴らしたのは城壁上の歩廊で監視と伝達の任務に就いている兵士さんたちだ。

レティア駐留の騎士様たちと兵士さんたちが総動員された警備態勢は完成していて、領民の通行は城壁の移動が終わるまで遮断されている。

万一に備えて、城壁の内側でも外側でも、領軍が遠巻きに下がらされている人垣を押し留めて、計画区域内に残っているのは私と、なぜかヤル気マンマンで、ドドーンと腕組みで反り返っているルナリアの二人だけだ。