作品タイトル不明
城壁移設 ⑥
お爺様たちもお婆様たちもお父様も朝食を摂りに来ないと思ったら、私たちが食堂へ着く前に朝食を終えて先に出たそうだ。
年末最後の関心事とはいえ、出掛けるのが早すぎやしないだろうか?
それだけ失敗できないってことかな。
ああ、そう言えば。
「・・・お母様。下準備って出来てるの?」
「昨日の内に終わっているぞ。5時半には立ち入り禁止区域の周囲を領軍が封鎖する」
ふむふむ。工事区域を立ち入り禁止にするのか。
あれ? 人の安全はそれで良いとして、城壁から500メートルの範囲内って畑が有ったよね?
「・・・冬撒きの植え付けが終わってる畑は?」
「補償済みだから気にせずやれ」
「・・・了解」
そっか。おカネで解決したんだね。それが手っ取り早いか。
既存の農地を潰すのは勿体ないけど仕方ないのかな。
減った農地分の土地を新たに耕し直すのは大変だろうけど、農家の人たちに頑張って貰うしか無いんだろうな。
自分に言い聞かせるけど、貧乏性な私としては、どうしても勿体ない気持ちを打ち消しきれない。
割り切れ、私。
お爺様たちがみんなで準備してきたんだから、当日になって私がグダグダ言うのは良くないぞ。
グダグダ考えながら厚切りベーコンをお腹に詰め込んでいる内に、朝食が終わって現場へ向かう。
厩舎で馬に跨がって領主館の敷地を出ると、まだ夜明け前なのに大通りは領民でごった返していた。
私たちの姿に気付いた領民たちが私たちに手を振って北門へ向けて歩いていく。
「・・・なにコレ?」
「見物人じゃない?」
反射的に手を振り返していた私の呟きにルナリアがツッコんでくれた。
えっ? でも、ちょっと待って。この花火大会会場へ向かう人波みたいなのが見物人?
まだ空が白んできたばかりの早朝だよ?
「・・・城壁の移動を見物するの?」
「そりゃ、するわよ。昨日、慰霊碑の見物人も多かったでしょ?」
「・・・そ、そっか」
娯楽が少ないもんなあ。
城壁の移動なんて、ちょっと大きいだけの曳家工事だと思ってたけど、領民は、そうは捉えていないってことか。
「・・・ま。仕方ない」
それほど領民たちの注目が高いなら、失敗できないな。
むしろ、それほど注目度が高いのなら示威行動の一部として利用させて貰うべきか。
どう利用するかなあ、などと考えつつ馬に揺られていると、たかが2キロメートルほどの距離は、あっという間だ。
「来たか」
馬を下りた私たちの到着にお父様が気付き、お爺様たちとお婆様たちも、こちらを見る。
お父様たちは、“光”の術式を浮かべた下で、図面らしき大きな紙を手にした兵士さんたちと打ち合わせている最中だったようだ。
「おはよう!」
「・・・おはようございます。お父様、お爺様方、お婆様方」
「おはようございます」
予想通り、エウリさんたち三人と違ってお爺様たちの顔色は良く、二日酔いになっている様子は無いね。
「はい。おはよう」
挨拶するために近付いたルナリアはお父様に、ノーアはセリーナお婆様にサッサと捕獲された。
相変わらず、岩陰で待ち伏せしていた 肉食生物(タコ) が通り掛かった獲物を捕食するような動きだった。
私は正面に立ったシェリアお婆様による全身チェックを受ける。
「おはよう。体調は問題無さそうですね」
「・・・バッチリです」
お婆様にグッと両拳を握って見せる。
一昨日みたいにムズムズするような落ち着かない感覚は無くなったけど、心身の充実した感じは一昨日以上かも知れない。
お婆様に元気アピールしていたら、マルキオお爺様に手招きされた。
「フィオレ」
「・・・はい」
お爺様たちの傍へ歩み寄ると、和やかな表情の兵士さんたちが頭を下げてきた。
あっ。この人たち、直線道路の伐採作業のときに丸太材の運搬作業をしてくれていた輜重部隊の人たちと、採掘場の建設作業をしていた工作部隊の人たちだ。
伐採作業に従事していた私たちにとっては同じ戦線で戦った戦友みたいなものだし、おおー、と小さく手を振ると、気さくに笑い返してくれる。
マルキオお爺様の小さな咳払いに目を向ければ、お爺様の大きな手が私の頭にそっと乗せられた。